小説 | ナノ

▼ にちじょう

今日もキツかった部活が終わり名前と花宮は2人で下校する。
今日あったことや明日は小テストだね、と他愛もない話を名前がして、花宮がそれに相槌をしたりしなかったり。
それが2人の日常である。

学校近くのコンビニを通り過ぎたあたりで、名前があっと声をあげた。

「今日ね、幸子が自分でお弁当作って来てた!私も作ろうかなって。何が良いと思う?」

幸子とは名前の友達である。いつものようにお昼を食べようとお弁当箱を開けると、幸子が自分のお弁当箱の中身を見せてきたのだ。
幸子は家が遠いため朝が早く、凝ったものは作れないがブロッコリーを茹でたり野菜の炒め物を入れてきたようだ。面倒くさがりの幸子にしてはよくやったと褒めてあげたいくらいだ。

幸子曰く、料理はほとんど炒めたり茹でたり、〜するだけと簡単らしく最近夜ごはんを作っているとのこと。
材料切って火通して味付けるだけだよーやってみな!と言われて、名前もやる気になったのだ。
真に手料理を食べさせてあげるとか出来るしね!頑張ろうっ!
そんな淡い妄想をしている名前を見透かしたのだろうか。

「何が良いってまずそんなにレパートリーあんのかよ。」

花宮が訝しげに言う。
それにむっとした名前が花宮の方を見ると、花宮もそれに応えるように名前を見た。

「何だよー手料理食べさせてあげるのにー」

名前は口を尖らせた。

「食えるモンなんだろうな?」

花宮がにやりと笑った。
いらないと言わないあたり、どうやら食べてくれるらしい。
母に何か料理を教わろう。

「無難にハンバーグで良いんじゃねえの。」

ふと花宮が言った。

「ほうほう、真クンはハンバーグが食べたいんですね〜
可愛いなーもう」

そう軽口を叩くと鋭い視線が刺さる。
お気に召さなかったのかな?

それからお前ふざけてんのか、など言われ、なんでよ、と睨むと軽い喧嘩が始まった。

ふう、と名前の額にうっすら汗が浮かんだところで喧嘩は終わった。
お互いの息遣いだけが聞こえる。
この沈黙も真となら優しい沈黙に変わるな、なんて思っていた。

その優しい沈黙を破ったのは名前である。

「あのね、」

「…?」

名前をちらりと見ると口を開いたり閉じたりしている。
ああ、何かやらかしたのか、と思いため息を吐いた。

「何だよ」

花宮に急かされて閉じていた口をゆっくり開いた。

「サッカー部の試合があって、人手が足りないからマネージャー手伝ってって言われて…あのね、だからね、お怒らないで…?」

まだ何も言ってねえだろ、と心の中で毒を吐いた。そう、まだ言っていないのだ、まだ。

「…それで?」

「あ、あの手伝ってあげたいなー、って…は、はは、」

名前が言い終わる前ににこにこし出した花宮に冷や汗が止まらない。
こういう時の真は怖い。急に満面の笑みなんだもん。

「そっか。しょうがないね。名前は頼まれたら断れないからなあ。名前も大変だね……なんって言うワケねえだろ!バカか、バアアアアアアカ!!!!」

「まっ、真!?なんかバカしか言ってないよ!?」

「うるせえ。お前忘れたのかよバアカ」

んべえええっ、という効果音がつく勢いで真っ赤な舌を出した。
まるで中指を立てながら酷い外国語を捲し立て激怒する外国人のような雰囲気だ。

外国の人ごめんなさい、なんか勝手な想像です、と心の中で謝る。

「またバカって言った…」

半分独り言のように言うと聞こえたのか花宮が答えた。
かなりよそよそしい話し方だったが。

「へえ、名字さんって僕たちの記念日忘れちゃうんだ
そうか、もしかして僕と名字さんじゃ愛の大きさが違うのかな」

え、記念日、きねんび?
とっさにカレンダーを頭の中で広げる。
……あああ!

「え、待って待って!忘れてたワケではないよ!?いや、忘れてたけど、忘れてないっていうか!
ていうか名字やめて距離感切ないいい」

俯きがちに言う優等生花宮くんのなんて儚いことか
きゅんときたのは黙っておこう。
そのまま花宮はゆっくり歩き始めてしまった。

「ん?…どさくさに紛れて私のこと大好きって言わなかった?」

「あ?言ってねえよ」

とすぐにばっさり切られる。

「例え言ったとしても嘘だから安心しろ」

ふいっと自然を装いながら目を逸らすとまた花宮がため息を吐いた。
あ、もしかして真照れてる?
そう言ったらきっとまた睨んでくるので言葉を飲み込んだ。

記念日には花宮から主張しすぎない小さなハートのネックレスが手渡された。

彼がマメなことに名前は感動し涙したのは2人だけの話である。

(150302)
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