小説 | ナノ

▼ 夜は青く

柳くんと肩を組んで、よろよろとうるさい街から出ようと歩いている。
夜だというのにうるさい、人が多い。
柳くんと夜の街を歩いてみたい、なんてロマンチックなことを考えて外に出たのに、それが出来ないくらいに混んでいる。
…都会怖い。

「うっ…酔った」

「大丈夫…?」

いつもの柳くんからは想像が出来ないほどに乱れていた。
髪はところどころ絡まっているし、人混みに揉まれたせいで服もよれっとしてしまっている。
なにより顔が青い。

「あまり大丈夫ではない
脳内がぐるぐる回る」

「よ、夜風にあたって落ち着こう、ね!?」

「…申し訳ないがそうしたい…」

外に出ているが実際には風よりも人の生温い熱気を感じて苦しい。

「ここに座ろっか」

「ああ」

少し歩くと公園が見えたので、入ってベンチに座る。
すると先ほどとはうって変わり涼しくて気持ちがいい。
夜の公園は静かで涼しくて最高だなあ。
少し寒く感じてきたけれど。

「名前」

「なに?」

閉じられた目はきっと私を見ている。
だからどきどきした。
柳くんの目には誰も耐性がないだろうから、私は柳くんの目がどうしても見たくて、そして見つめて欲しい。

「手を繋いでもいいか?」

「う、うん」

柳くんは組んでいた私の手を優しく解いて手を握った。
外は少し肌寒いというのに、柳くんの手は灼熱だった。
もっと冷たくて美しいお人形さんのようものを想像していたけれど、どうやら違うみたい。
熱くて骨張っていて大きい。
私の手を隠せてしまうんじゃないかと思わせる、男の手。

「少し冷たいが、寒いか?」

「それは柳くんの手が熱いからだと思う」

「フッ、バレてしまったか」

柳くんはくすくすと笑った。
手を繋いだらバレバレだと思うんだけどなあ、と思いながらつられて私も笑う。

「ね、柳くん」

「どうしかしたか?」

柳くんが少し笑うので夜に映えてとてもきれい。

「なんでもない」

「そうか」

私と柳くんはくだらない会話が大好きだ。
ニュースで見た真剣な話をするのも考え方が違うからもちろん楽しい。
ただ柳くんを呼んだり、呼ばれたり
「明日は晴れるね」だとか話して「そうだな」と言われるのが楽しかった。

「名前」

呼ばれたので柳くんのまぶたを見つめる。
いつか柳くんの目を独り占めしてみたい。
ずっと私を見ていて欲しい。

「なに?酔いはどう?」

「なんでもないが、酔いは少し治った」

柳くんはそう言って絡まっていた髪を手で整えた。
その仕草は女の子を想像させたけれど、柳くんがやったら可愛いどころかとても優雅だった。

「そっか、なら良かった
…なにか飲む?」

「名前の作ってくれる蜂蜜入りのホットミルクが飲みたい」

「今外なんですけど…」

え、と私が呟くと柳くんは一度深呼吸をする。
夜の空気は冷たい。
私も柳くんに倣ってその空気を肺いっぱいに吸い込む。
肺が冷たくなった気がする。

「帰ろう」

「うん」

柳くんが立ち上がって私を引っ張って立ち上がらせてくれた。
柳くんの些細な優しさが大好きだ。
手を繋いで家の方向に歩き出す。

「ねえねえ、柳くん」

「なんだ?」

初めから用などないけれど、柳くんの声が聞きたくて何回も呼ぶ。

「あのね、」

「なんでもない、とお前は言うだろうな」

柳くんにはやはりお見通しで繋いでいた手を少し引っ張られる。

「寂しがり屋な小鳥を見つけた」

「?どういうこと?」

小鳥なんてどこにもいない。
もう動物は寝ている時間だと思う。
駅の方がうるさくてそろそろ終電なのかな、とぼんやり考える。

「お前が何度も俺を呼ぶのは寂しいからだろう?」

「バレた?」

「最初からバレているぞ」

柳くんが私の頭を撫でる。
子供扱いをされている気がしてむっとしたけれど柳くんの手が優しいのでなにも言えない。

「名前の寂しさは俺がすべて取り除こう」

「王子様?」

柳くんがそんなセリフを言うと思わなかったので驚いた。
すると柳くんは少し目を開けて笑う。

「いずれ名前の王子になるさ」

「柳くんは朝廷っぽいと思う」

「…」

柳くんが静かに目を開けて私を見る。
その仕草が怖くて苦笑いしか出来ない。

「柳くん、」

「家に帰ったら思い知るといい」

柳くんが鼻で笑うので背筋が凍った。
柳くんを怒らせた私が悪いのだけれど、これほど柳くんと家に帰るのが嫌だと思うことなんてないと思う。

柳くんの顔はもう青くなくて、笑っていた。

(150523)
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