小説 | ナノ

▼ 俺が黙って見ていると思うな

「真田くん」

「名前か、どうした」

真田くんの背中に声をかけた。
いつも緊張してなかなか声をかけられないけれど、今日はそうはいかない。
だって今日は真田くんの誕生日だからね…!

「今日誕生日だよね?
プレゼントを用意したんだけど…」

もらってくれる?
両手でプレゼントを渡しながら言うと、言い終わる前に真田くんの顔が険しくなったので言葉を止める。

「名前、風紀委員として言わせてもらうが学校には勉強と部活で使う物以外は持って来るな」

「ご、ごめん」

私は手にあるプレゼントをゆっくり胸の前で抱えた。
そうだ、真田くんは真面目だからこういうふうに言われるのも考えておかないといけなかったんだった…。

「気持ちはありがたい
しかし場を弁えて欲しい」

「うん…」

ごめんね、と言って真田くんから逃げるように走った。
せっかく用意したのに。
彼氏が出来ることも初めてならば、まして彼氏の誕生日なんて祝ったことがない。
だから失敗がないように張り切って1ヶ月前から考えていたのに。
結果がこんなことになるなんて。
私ってバカ。

「おっと」

「っ、いっ…?痛く、ない…」

ヤケクソになって走っていると、角から出てきた誰かとぶつかりそうになった。
でもその誰かがうまく私を受け止めてくれて、痛くない。

「大丈夫か」

「…柳くん」

誰かは柳くんだった。
いつも真田くんのことを相談して迷惑をかけている。
このプレゼントだって、柳くんと一緒に考えた。

「なにか悩んでいるな
大方弦一郎のことだろう?
俺でよければ話を聞こう」

「…」

私がなにも言えず目を泳がせていると、それに気づいたのか柳くんが私の肩に手を置く。

「場所を変えるか」

自分が協力したことが水の泡になったなんて知ったら、柳くんはどう思うのだろうか?
柳くんに申し訳ない。
そう考えている間に音楽室の前の廊下まで歩いて来た。
最上階にあるので窓からの景色が良いし暖かい。

「ここなら誰も来ないな
さあ、話してくれないか」

「っ…柳くん」

私が唇をぎゅっと噛むと柳くんは私の頭を撫でた。
柳くんの腕が動く度にほのかに和の優しい香りがして心地いい。

「ゆっくりでいい」

ああ、柳くんはどこまで優しいのだろう。
柳くんがこんなに優しいのに、なぜ真田くんーーーー。
悪いことを考えてしまった。
優しいからといって柳くんに靡くなんて真田くんにも柳くんにも失礼だ。

「それなら俺に乗り換えるか?」

「えっ?」

私がさっきあったことを話すと、柳くんは何食わぬ顔で言った。

「えっ、とお前は言うが…名前のことが好きなのは俺の方が先だ」

「え、え、嘘」

嘘でしょう?
柳くんは私を冗談で騙して元気づけようとしてくれているんでしょう?

「蓮二、名前をたぶらかすな」

私が驚いて柳くんを見ていると、真田くんが少し汗をかいて私と柳くんの前に現れた。
真田くん、なんでそんなに汗をかいて…。

「ようやくお迎えか」

フッと柳くんは笑った。
やっぱり私に冗談を言ったんだね。

「蓮二…」

お前はなにをしているんだ、そう言いたそうな真田くんの言葉を柳くんは遮った。

「お前は名前のなんなんだ?」

柳くんがいつもより怖い。
私の悩みを聞いてくれて、的確なアドバイスをくれる柳くんじゃ、ない。
柳くんの纏う空気が怖くて、冷や汗が背中をつたう。

「名前を悲しませるなとあれ程言ったはずだが」

「それは」

「言い訳は聞かない」

柳くんはそう言うと私から離れて真田くんに近づいた。

「ーーーーーーーーーーーーー」

「蓮二っ」

柳くんが真田くんの耳元で言った言葉はわからないけれど、真田くんがとても焦って、柳くんのまぶたがうっすらと開いて現れた目はとても冷めていた。

「名前、話がある」

「なに?」

真田くんが気まずそうに話しかけるので、私は出来るだけいつものように答えた。

「まったく、世話が焼けるな」

それを見た柳くんがフッと笑って去って行く。

「蓮二、すまなかった」

真田くんが少しずつ小さくなる柳くんの背中に言うと、柳くんはほんの少しだけ振り返って真田くんを視界に入れる。

「それは名前に言う言葉だろう」

口元をゆるりと緩めたと思うと柳くんはさっさと歩いていなくなった。

「名前」

「はい…?」

「…すまなかった」

真田くんが頭を下げるので驚いて真田くんの肩をがっしり掴んでしまった。

「えっ、ううん、大丈夫…」

「名前が大丈夫だとしてもダメだ
俺の気が済まん」

真田くんはそこで区切って頭を上げると目が合う。
芯のある強さのこもった目で見つめられると恥ずかしくて、瞬きをたくさんしてしまう。

「お前が蓮二と仲が良いことに嫉妬していた」

「…え…」

相変わらずまっすぐな目で私を見て、まっすぐな言葉で言うのでどうしたらいいのかわからなくなった。

「えっと…真田くん…私こそごめんなさい」

「なにがだ?」

私はグッと歯を食いしばってから、さっき思ってしまったことをはっきりと言った。謝った。

「蓮二が優しいのに変わりはない
そう思うのは自然だろう」

「でも比べるなんてよくないことをしたでしょう?」

「それには俺という原因がある」

なんだか私が遠回しに真田くんが悪いと言ってしまったような気がして、真田くんに謝った。

「…ごめんなさい」

「なぜ謝る?
俺の方こそすまなかった」

「…」

私が不満そうに真田くんを見つめると真田くんはふう、と一度息を吐いた。

「…埒が明かない、やめよう」

「…うん」

真田くんは窓の空を見上げた。
なにかあるのかと思って私も真田くんの隣で空を見上げる。

「なにかあるの?」

「いや、ない」

即答されたのでつい真田くんらしいな、と笑ってしまった。

「名前…俺は自分の気持ちを伝えるのが苦手だ
だが努力する
だから…俺と一緒に今後を過ごしていかないか」

まるでプロポーズのような言葉だった。
真田くんが私のために努力してくれるということが嬉しくて、私は真田くんの手を握った。

「お願いします!」

「ああ、任せろ」

真田くんは握った手をぎゅっと握り返してくれた。
強くて温かい。
これからこの手に引かれて私はどんなことを経験するのだろう。
考えれば考えるほど、楽しくなって笑った。

(150521)
柳が真田の耳元で言った言葉はタイトル通り
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