小説 | ナノ

▼ ケーキへの誓い

コトン、とケーキが乗った綺麗な白いお皿が、控えめな音を立てて名前の前に現れる。

「どうぞ」

丸井はにんまり笑ってウエイターのように美しいゆっくりとした動きで紅茶も置いてくれた。

「ありがとう」

「いいって」

そう言うと丸井は名前の向かい側の席に座って頬杖をつく。

「食べてもいい?」

「もっちろん」

綺麗な白いお皿の縁には空のような清々しい青で小花が描かれており、ケーキの上のフルーツは光を受けきらきらと輝いている。

「いただきます」

「早く早く」

丸井が急かすので名前は少し笑ってしまう。
丸井の言葉に逆らって崩さないようにゆっくりフォークで一口大に切り、落とさないようゆっくり口に運んだ。

「あ、美味しい!」

「だろい?丸井スペシャルだぜ!」

丸井が満面の笑みで言うので名前は首をかしげる。

「?丸井くん作ってないよね?」

「まあな…」

丸井は少し気まずそうに答える。
名前はそんな丸井が可愛いと心の中で笑った。

丸井と名前は丸井の行きつけと言うケーキ屋に来ていた。
明るい店内はレンガで出来ており、そのレンガもお菓子のような色をしてまるでヘンゼルとグレーテルの気分だ。
ケーキ屋と言ってもかなり大きく、店内と外に数席ずつお茶をする席が用意されている。

「ここ、すっごく可愛いお店だね」

「やっぱ名前もわかるか?
なんか雰囲気が名前好きかなって思ってさ」

名前の言葉に答えながら店内の様子を見渡す丸井は嬉しそうに言った。
まるで自分のことを褒められたかのように丸井は笑う。

「名前にもこの店知ってほしくて…連れ出しちまってごめんな?」

「大丈夫だよ!楽しいし美味しいし」

「なら良かった」

丸井はそう言って自分の紅茶を一口飲んだ。
終始笑っている丸井がなんだか可愛くて名前も笑ってしまう。

「丸井くん可愛いね」

名前が言うと丸井は眉をひそめ、ズズッとわざと音を立てて紅茶をすすった。

「行儀が悪いぞ、丸井!」

「さ、真田の真似はやめてくれよい…
真田とデートしてるわけじゃねえんだから…」

「ふふ、ごめん」

名前が真田の真似をすると思った以上に丸井が嫌そうな顔をするので謝った。

「ってか、可愛いのは名前な」

「えっ…」

「だーかーらー、可愛いのは、名前!」

相変わらず笑って言うので名前は驚いてしまった。
まっすぐな褒め言葉になんと返していいかわからない。
ありがとう?そんなことないよ?丸井くんの方が可愛いよ?
どれなのだろう。

気を紛らわせるためにとりあえず紅茶を飲むことにした。
あっさりとした舌触りのセイロンティーが名前を落ち着かせる。
ふう、と小さく息を吐いてティーカップを置くと丸井が手を重ねる。
名前が驚いて丸井を見ると真剣な顔をしていた。

「丸井くん、」

「これからもさ…俺と、ケーキ屋巡りしてくれねえ?」

少し不安そうな、しかし決意を決めているような顔つきの丸井に名前は目をそらせなくなった。
まるでプロポーズではないか。
こんなに真剣に言われると緊張してしまう。
答えは聞いた瞬間にYESだが、なにぶん今まで可愛かった丸井が急に男らしくなりパニックになる。

「…名前?」

「あの…お願い、します」

「そんなかしこまんなよい」

だって、と言いながら名前は苦笑した。
恥ずかしくて目の前のケーキを見ていると呼びかけられる。

「名前」

「?なに?」

名前が首をかしげて丸井を見るとやはり真剣な顔をしていた。

「好き」

丸井が気持ちを言葉にするので驚いた。
普段「好き」だとか「愛してる」なんて言わないからだ。
感情が顔には出るが口には出さない。
お互いどこか遠慮していた。

「名前、これからもよろしく」

丸井が笑った。
笑顔が眩しくて名前は目を閉じた。

「ね、丸井くん」

「ん?」

「私もすき」

目を開けて丸井を見つめると驚いていた。
名前の口から聞けるとは思っていなかったのだろう。
丸井は握っている名前の手を自分に引き寄せると手の甲にキスをした。

「丸井くん、ちょ…」

名前が恥ずかしいと抗議するもそれは聞いてもらえなかった。
丸井は手に唇を近づけたまま言う。

「いろんなとこ行こうな」

「?うん」

急になにを言い出すのかと思ったら嬉しいことを言ってくるので名前は笑った。

「たっくさん遊ぼうぜ」

「うん」

「天才的なカップルになろうぜ」

「?どうやって?」

「わかんねーけど」

なり方はわからないけれどきっと丸井となら大丈夫だろう。
そんな気がする。
どこからか湧いてくる自信がそう思わせた。

「うん、わかった」

「じゃあ行こうぜ!」

丸井が手を引っ張って走るので名前も一緒に走った。
今日も丸井と2人で笑いあって過ごすことを2人の大好きなケーキに誓った。

(150501)
大遅刻生誕記念
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