小説 | ナノ

▼ じゃあ本音をひとつ

「深海魚見たい」

「そうか」

柳は名前の言葉を受け流し本棚の前に立った。

「連れて行け」

「俺は読書をしよう」

ちらっと名前を見ると不満そうな顔をして睨んでいた。
柳はその視線も受け流して本棚に向き直る。

「お願い柳さま」

「却下だ」

本棚から最近買った本を取り出し手元にある茶色のブックカバーをかけて名前の近くに座った。

「じゃあクイズ出して」

近くに座ったのをいいことに名前が身を乗り出して柳に詰め寄った。
柳は既に本を開き読み始めている。

「急だな」

「急かな」

「…パンはパンでも、」

柳は集中していなくても本は読めた。
だが人が書いたものを集中せず流し読むのは買った意味がないし作者に失礼ではないか?

「パンティ?」

そこで即答をしないでくれ。
柳は頭が痛くなる。

「…あまり…失望させるな…」

「興奮したの間違いだよね?」

はあ、とため息が漏れた。
今日は本を読めないかもしれない。

「無視して良いか?」

「えーだめー」

「…」

「えっ、無視?」

口論の結果、勝ったのは柳だ。
柳が無視をすれば名前はすぐに静かになる。
柳がため息を吐けばおそるおそる柳の表情をうかがう。
名前は柳が大好きだ。
わがままを言いつつもすべて柳の言う通りにする。
名前にとっては柳がすべてにおいて正しいと思っているのだ。

「柳さん」

「なんだ」

適当に紙の表面を見て読んでいるふりをした。
もう本はいい。
名前が来た時点で読める確率は大幅に下がっていたのはわかっていた。
柳自身、名前と一緒ならば名前となにかをして過ごしたいという感情があったからだ。

「あのね…怒った?」

「…確率を出してみると良い」

わざと間をあけて答えると名前はさらに焦りだした。
一緒になにをしたら名前を退屈させずに満足させられるのか。
柳にはまだその答えはわからなかった。

「怒ったのね…」

「まだなにも言っていないぞ」

柳は本を読みながら笑いを堪えるのに必死だった。
あんなに強く出ていたのに急に機嫌をうかがっている。
まるで猫だ、と柳が心中で呟いた。

「名前」

柳が手に持っていた本を近くに置いた。
茶色のブックカバーが柳の心の深さを表していることを名前は知らない。

「なに?」

柳が名前を向いたので名前は笑顔を見せた。
純粋な笑顔で柳を見れば、柳の笑顔も見られるからだ。

「明日が1日暇な確率は98%で異存はないな?」

「いいえ、100%です」

「異議申し立てか」

これは嬉しい異議申し立てだな、と再び心中で呟く。
この呟きを言葉に出してしまえば名前が簡単に喜ぶのを柳は考えもしない。

「だって柳さん以外と遊ぶと『柳さんとだったらもっと楽しいな』とか考えちゃって相手にも失礼じゃん」

「それは…ふむ、計算外だ」

「なにが?」

柳は顎に手をあてなにか考えると笑った。

「俺も同じことを考えたことがある」

「え…」

そうか、言ってしまえ。
俺はお前がこんなにも好きなのだと。

「明日深海魚を見に行かないか」

「っ行く!」

柳がデートの誘いをするので名前は驚いたように答えた。

「その後はどこかで魚の料理を食べよう」

「?うん、まあ良いよ」

言え、言ってしまえ、柳蓮二。

「魚を見た後に魚が食べられるのか」

「ちょっと頑張れば大丈夫」

名前の言葉に柳は笑った。

「名前」

近くにある名前の手をとった。
その手に名前が好きだという童話の王子のようにキスをする。

「!?柳さん、」

「どうしたの、と名前は言うが…本当にどうしたんだろうな、俺は」

自嘲したように眉を八の字にさせて呟くと柳は唇を手に近づけたまま続けた。

「デートも名前のさまざまな表情を見ることが出来て楽しいが…独り占めしたいと思うのは俺のわがままか?」

さあ名前、一味違う俺はお前にどう映る?

柳は触れ合っていた手を引っ張り名前を強く抱きしめた。

(150423)
prev / next
[ Back to top ]


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -