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▼ 彼女イリュージョン!

なんて言うのかのう、こういうの。
名前が俺の彼女になってから名前ばっか見ちょる気がするんじゃが。
笑顔が可愛かったり健気だったり見とると飽きんし面白い。
今なんて友達に勉強教えてやっとる。
優しいヤツじゃのう…あ、転んだ。
まずなんでそこで転んだのかわからん。
床は真っ平らじゃけど…。

手でも貸して男前なところ見せてやるぜよ。

「名前、大丈夫か?」

「仁王くん!?み、見てたの?」

どうやら転んだところを見られたのか心配みたいじゃ。
別に可愛かったから見られてもええと思うけどな。

「あー…まあ、見とった」

「…恥ずかしい…」

おいおい、そんな両手で顔隠して恥ずかしがらんでも言いふらしたりはせんのに。
余計なこと言って名前に興味持たれたらたまらん…ってなんだか真田みたいじゃな。
名前の親父みたいになった気分ぜよ。
可愛い娘をそうほいほいやるわけがないじゃろ。
まあ娘じゃのうて彼女なんじゃけど。

「怪我は?」

「ないよ、ありがとう」

「ならええんじゃ
そうじゃ、今から一緒に飯でも食わん?」

あー廊下から真田の怒鳴り声がきこえちょる。
はいはい怖い怖い、じゃが名前と屋上に逃げればこっちのもんぜよ。
真田は女子が近くにいると怒鳴れんからな。

「いいけど…真田くん呼んでない?」

「呼んどらん、大丈夫じゃ
真田は叫ぶのが仕事なんじゃよ」

「…?…わかった」

ほーら騙されとる。
俺なんかと付き合うから毎日騙されとるのにそれに気づいとらん。
真実だと思い込んじょるのがまた可愛い。

教室から出て静かな廊下を歩き始めてふと手が寂しく思う。
…手ぇ繋いじゃろ。

「また転ばんように手ぇ繋いどくぜよ」

「え、もう転ばないよ!
仁王くんは心配性だなあ」

手が繋ぎたいだけなんて言ったらなんて言われるんじゃろ。
のばした俺の手は空気を握る。
俺より細くてきれいな手に触れたいだけ
俺のお願い聞いてくれんとイリュージョンで遊ぶけどええんか?
仁王くんの手が寂しいきに、名前にいたずらしてやる。
…まずは、っと。

「そう言って転ぶ確率82%」

「えっ、」

俺が目を閉じて出来るだけ無表情で言うと名前が驚く。
参謀のイリュージョンはまだ勉強中で誰にも見せとらん。
名前が一番最初じゃ。

「柳くんみたい!」

物珍しいモンを見て興奮した名前が顔を近づけて来る。
…ちゅーしちゃってええ距離じゃろ、これ。

「喜んでくれたかの」

「うんっ!」

ちゅーするかしないかの葛藤を平常心で覆って名前に聞くと元気な返事が返って来た。
なんじゃこれ、喜んで良いのか嫉妬して良いのかわからんぜよ。

「…参謀で喜ぶのはちと複雑なんじゃが…」

「で、確率は適当?」

無視か名前。

「てきとう」

べーっと舌を出すと名前が笑う。
今の笑顔スマホの待ち受けにしたかったぜよ。

「仁王くんらしいのか、らしくないのかわかんない」

「ひみつじゃ」

しぃ、と人差し指を名前の唇にあてると顔を赤くしちょる。

「なあに照れてるんじゃ?」

うぶなところが可愛くてにやにやが隠せん。
こいつ俺のツボをよう知っとるが…誰かに聞いたんか?

「に、仁王くん」

「なんじゃ」

「指離してくれないと食べちゃうぞ」

………
な、なん、なんじゃ今の…!?
リスみたいな顔しとったけど可愛すぎじゃなか?
指くらい全部やるきに。
俺の指が名前に食われるんなら本望じゃ。

「どうぞお姫さま」

「え、食べたらもう手繋げないよ」

「それはどうしようかの」

俺としたことがそんなこともわからなくなったんか。
名前のこととなるとあんまり頭が回らん。

「またてきとう?」

「そうじゃの」

飄々としておけば誤魔化せるから俺は俺が好きぜよ。
こんな締まりのない彼氏と知ったら名前もがっかりじゃろ。

「あんまりてきとうだと私と付き合ってるのもてきとうなのかと思うよ?」

「…そんなこと言うて、本当は俺の本心が聞きたいんじゃろ?」

「…うん」

はあ、と大きなため息が出る。
これ本当に言わないといかん?
引かれたら俺はどうしたら良いのか考えたことあるんか?

「…後悔しても知らんぜよ」

「え…?」

そう不安な顔をしなさんな。
学校なのに抱きしめてちゅーしたくなるじゃろ。
あーもう、抱きしめるくらいは許してくれん?

ギュと名前を抱きしめる。

「仁王くん、」

「好きぜよ
名前で頭がいっぱい、上手くかっこつけられん、脳内で毎日デートしちょる
…こんなこと言われてもまだ俺のこと好いとるか?」

心臓がバクバクうるさいぜよ。
名前がなんて答えるかなんて想像つかんし嫌われるのが怖い。
重いとか言われたら仁王くんどうしたらええかわからん。

「好いてるよ
だーい好き」

これが満面の笑み言うんか?
今までのどの表情よりも可愛すぎるじゃろ。
なにこれ、俺の天使?迎えに来たんか?

「…その笑顔眩しすぎんか」

「え?」

…名前が俺よりすごいイリュージョンで俺を欺くんじゃが。

(150421)
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