小説 | ナノ

▼ 迷惑とは

「名前さん」

名前が廊下を歩いていると、後輩である日吉に影から小声で呼びかけられる。
3年のフロアに来るほどの大事な用事なのかと名前は急いで日吉に近づくと、日吉はどこか張り詰めた表情をしている。

「日吉くん、どうかしたの?」

名前がさりげなく日吉の腕を掴んで顔を覗き込むと日吉はびくりと肩を震わせた。

「…日吉くん?大丈夫?どこか具合悪い?」

いつもと違う日吉が気になりもう少し近づくと日吉はぎゅ、と名前を覆うように抱きしめた。
まるで誰にも見せないように。

「俺はもう…限界です
名前さん、俺のものになってください」

「え…」

いきなりのことで驚いて、名前はなにも出来なかった。
なすがまま日吉に抱きしめられ、囁きを聞く。
日吉の声は震えていた。

「好きです名前さん…好きだ」

日吉が名前をきつく抱くと名前が苦しんだ。

「ひよしく、苦し」

「、すみません」

至極申し訳なさそうに謝り日吉は腕の力を抜く。
しかし名前を離さないように力を入れている。
日吉の腕は重くてたくましく、男ということを感じさせられた。

自分は日吉がこうなるまで気づいてやれなかったのか、と名前は心を痛めた。
少し話が違うかもしれないが、マネージャーとして彼を毎日見続けているので変化なら気づくと思っていた。

「日吉くん…知らなかった、悩ませてたなんて
私、テニスの妨げになってたね」

「そういうわけじゃないです
むしろ名前さんがいてくれたおかげで部活に打ち込めてますから」

「…そうなの?」

「はい」

日吉が名前をまっすぐ見て言うので名前はほっと息を吐いた。
自分のせいで誰かを悩ませていたのならなんとお詫びをしたらいいのかわからないからだ。

そうだ、日吉くんが告白してくれたんだから返事をしないと

「日吉くん」

「…はい」

名前が真剣な表情で日吉を見るので日吉も背筋を伸ばして名前を見た。
返事が来るとわかったのだろう。

「…私、日吉くんのこと好きだよ」

そう言うと名前は続けた。

「でも今はだめ」

「…は?」

「その…日吉くんの下剋上を見たいの」

力強く言うので日吉は返事に困ってしまった。
しかし日吉も気持ちが同じならと名前に言った。

「下剋上なら彼女になってからでも見れますよ」

下剋上を果たすことは決定事項なのだな、と感心してしまった。
するつもり、ではなくする、と言い方から徹底しているところが名前はひどくかっこよく見えた。
しかし、と名前も言った。

「私わがままだから…テニスや古武術があるってわかってるのに私を優先してほしいって考えちゃうと思う」

「それは、」

誰でもそう思うんじゃないんですか、好きなんだから

日吉はその言葉を続けられなかった。
名前は人に迷惑をかけることが大嫌いだ。
だから先ほどもあんな風に迷惑をかけたと謝ったのだ。
日吉は奥歯を噛み締めた。
こんなにも欲しいのに。
同じ気持ちなのに。
噛み合わないことが辛かった。

「俺はっ、寂しい思いをさせるかもしれないけど…名前さんを俺の彼女にしたい」

「日吉くん、お願い…」

「…名前さん」

どうしたらいいのかわからない
なんて言ったらわかってくれるのだろう

日吉は片手で名前の肩を壁に優しく押しつけると顎を指で上げ自分の方を向かせキスをした。

「っ!?」

突然のことで名前は驚き目を見開いた。
触れるだけのキスがだんだんと唇を触れては離すのを繰り返した。
日吉が名前の唇を優しく噛んだり吸ったりするので名前は気が気でなかった。

「ひ、ひよ、」

「…だめですか…?」

「っずるいよ…」

名前が言うと日吉はフッと笑って「下剋上ですから」と言うのだ。

(150416)
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