小説 | ナノ

▼ 誰のための世界なのだ?2

注意*病みと死ネタと二つの意味の暴力があります

あれから何日経ったのだろう。

正確な日にちはわからないが、白石はずっと名前の隣にいた。
大丈夫大丈夫、と名前を安心させてくれた。

ここがどこで、誰がなんの理由で監禁しているか。
そういった疑問はなに一つ解決していないが、ここもなかなか居心地が良かった。
2人でご飯を食べたり洗濯したり、まるで夫婦のような生活を送っていた。

楽しい。
白石がいることで名前は単純だがそう思うことが出来た。
左足の細い枷は食い込むが、それよりもこの生活、空間が優しさで溢れていたのであまり気にならなかった。

ある日から名前は頭痛に苦しめられていた。
それを白石に言うと、頭痛薬や冷やすものをたくさん持ってきてくれた。

「窓がない家にいるからやろなあ
窮屈とかストレスからきてるのかも知れへんな…」

「蔵ノ介くん、いつもありがとう」

監禁されてから2、3日で、名前は白石のことを下の名前で呼んでいた。
白石が下の名前で呼びあって仲良くしようと提案したのだ。

「気にせんと、はよよくなってな」

「うん」

目が覚めるとなにかが目の前をよぎった。
それは実際の目の前ではなく、記憶が駆け巡る走馬灯のようなものだった。
よぎったものはどこかで見たような気がした。
懐かしいような、楽しかったような。
少しあやふやな部分はあるが、その記憶のようなものの中で、見知った顔を見つけた。
白石だ。
白石は名前を見つけると笑った。
名前はというと、怯えていた。
なぜだろう?
なぜ自分は怯えている?
白石は怯えたままの名前に近づきキスをした。

恋人だったのかな?

そう考えていると、白石は名前の首を絞めた。

「えっ!?」

名前は二つの意味で驚いた。
一つは記憶。
優しい白石が自分の首を絞めるなんて考えたこともなかった。

もう一つは実際に苦しいこと。

苦しい。
これは記憶でしょ?
ならなんで今も苦しいの?

今もなお首を絞められているような感覚に陥った。
目の前には誰もいないのに。
苦しい。
その苦しさは頭痛を引き起こした。

「はあ、頭が…っ!」

はあはあと息をする。
息を吸うだけで痛い。
首も、頭も。

息をしなければしないで、生命の危機で息が苦しいし頭もズキズキする。
名前は思わず奥歯を強く噛み締めた。

するとズキリ、と一度だけ大きな痛みが襲った。
先ほどの走馬灯のようなものがさらに早く駆け巡り、なにかが出来上がった音がした。

「蔵、」

そう口に出すと遠くで本を読んでいた白石がこちらに近づいた。

「くら…」

そう呟き少し怯えた顔をする名前に白石は心底困った顔 ような をした。

記憶が戻った名前はこの顔は知っていた。
名前はその顔が嫌いだった。
悲しそうな苦しそうな表情をつけているだけで、中では悪い顔をしているのだ。

「ああ、記憶戻ってもうたん?」

「え…?」

「なんの記憶も持ってへんの、気いついとったんとちゃう?」

いつものように白石は優しく笑った。
いつもの笑顔。
それなのに、怖い。
やはり、なにかがおかしかった。

仕方がないという風に白石はこれまでのことを話した。

白石は名前が好きだった。
そして名前が好きなのは謙也。
名前と白石付き合っていなかったが、名前と謙也は付き合っていた。
白石と名前はただの選手とマネージャーだ。
仲良くする2人が羨ましかった。
なぜ謙也なのだろうと思った。

だから奪ったのだ。
まだ無垢で白くて美しい園を。
誰にも言えないことをされ、弱みを握られ、怯えて、自分のことで頭をいっぱいにすればいい。

なのに名前は決して白石に屈しなかった。
謙也といつまでも幸せそうにしていた。
自分では言い表せないくらい大きな嫉妬に飲み込まれた。
奪ったのに。
さらなる愛で結ばれる彼らの愛の深さを知ってしまった。
自分のつけいる隙などないことを知ってしまったのだ。

ああ、もうだめだ。
自分を抑えきれない。
好きだ、

そして抑えきれない感情とともに笑って近づいた。
名前は怯えた。
だから、否、はじめから首を絞めるつもりで近づいた。
名前は死と白石の二つの恐怖で震えていた。
「名前…」
白石は意識を手放す名前に囁いた。

名前が目を覚ますと白石のことも、謙也のこともなにも覚えていなかった。
これは好都合だった。

なあ、一緒にいてもええやろ?
2人で暮らしたらお互いしか見えへんから

暮らしてみると実際そうだった。
名前は白石に惹かれた。

それなのに名前は思い出した。

「一緒に逝くのと、…まあええわ」

白石はなにか言いかけてやめた。

名前が白石を見つめると、白石は笑った。

同じだ。
今度は殺される。

名前は覚悟した。
逃げられない、と。
もう白石からは逃げられない。
名前は目を閉じた。

「俺たちにこの世界は少し合わんみたいやな…」

白石の囁きが聞こえた。
その後、白石の手が名前の首に回る。
苦しくて、苦しくて、閉じた目をうっすら開けた。

白石は泣いていた。

「名前…好きなんや…」

すぐ追いつくから、と白石が言った。

もう息が終わる。
もう心臓が止まる。
もう脳が「酸素が足りない」と叫んで動かなくなる。

なのになんだろうこの気持ち。

涙を流す白石が美しい。
ずっと見ていたい。
もっともっと近くで見せてほしい。

あ…わたし、蔵のこと、すきだ。

そう思ったのは白石も息も心臓も脳もなにも、感じなくなったときだった。

(150322)
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