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▼ 誰のための世界なのだ?

背中が痛い。
ふかふかのベッドで気持ち良く寝ていたのに。
痛みを軽減させるために寝返りを打つと、今度は腕や肩が痛い。

「おい、起きれるか?」

お母さんいつもより声低くない?
寝ぼけた頭で考える。
うっすらと目を開けると、見覚えのない顔が名前を見ていた。

「おお、起きたか
どこか痛いところないか?」

「大丈夫」

「ならよかったわ」

「ここどこ?」

名前が目をこすりながら白石に問うと、白石は目が赤くなる、とこする手を掴んだ。

「ここなあ、ようわからんねん
でも外に出られるで」

「え、じゃあ出ようよ」

そう言い立ち上がって白石の手を引っ張る。
せやな、と言い名前をドアに案内すると、真っ黒なドアを見つけた。

「ほら、出られるで」

白石が先に外に出る。
白石が開けたドアから真っ白な光が差してくる。
昼間なのだろう。
急に明るくなって目が痛い。
それに続いて名前が足を踏み出すと、左足に違和感を覚えた。

「…?」

「?どうしたん?」

左足を見ると、手錠がかかっていた。
鎖がついており、先ほどは気づかなかったがベッドの近くに繋がってある。
ドアまでは歩けるが、外に出る1歩手前で鎖が限界で行けない。
手錠は細くて足を動かすと食い込んで痛い。
白石がそれに気づいたのか、名前の足元に駆け寄る。

「なんやこれ…!?
今外したるからな!」

「ありがとう」

言うや否や、白石が名前の足に触れ手錠をガチャガチャといじる。

「…取れへんな…とりあえず鍵探そか」

「う、うん」

ドアを一旦閉め、室内に戻り周りを見渡した。
少し大きいが普通の部屋だ。
ブラウンを基調としているのか、どこか落ち着いている。
大きな本棚があってさまざまなジャンルの本が置いてある。
ベッドも大きい。
これはクイーンサイズだろうか?
小柄な人が3人が寝ても大丈夫だろう。
他にはテーブル、イス、テレビ、キッチンなどどうやらワンルームのようだ。
…窓はないが。
いたるところの扉や棚を開けたが鍵はどこにもなかった。
念のため着ている服も確かめたが、なにもない。

そもそも、なぜこんなところにいるのか。
なぜ知らない人といるのか。
なぜこの人には手錠がなくて自分にはついているのか。
名前はわからないことだらけで不安になった。

「そや、言うの忘れたんやけど、俺は白石言います。
そっちは?」

「名字名前です」

名前が言うと白石は笑った。

「名前ちゃんか、よろしく」

「絶対一緒に出ような」

「うん」

名前の不安な中に、白石が光を差した。
名前は心の中で白石に感謝した。

「(掴みは上々)」

話し合った結果、白石が外に出てここがどこなのか見てくるということになった。

「必ず帰ってくるから待っててな」

「うん、気をつけて」

「ほな、行ってくるな」

白石がドアノブに手をかけて名前を振り返る。
白石が手を振ると名前も手を振った。

「いってらっしゃい」

寒い。
夜になったのだろう。
だんだん寒くなってきた。

白石はまだ帰って来ない。
もしかして自分を放って逃げたのか、そんな考えがよぎる。
白石自身も監禁、なのだろうか、そんな状況下だったのだ。
逃げても仕方ない、頭ではそう思うが帰って来てほしいと願った。

ギィッと真っ黒なドアが音を立てる。
名前がそちらを向くと、会いたい人がいた。

「悪い、遅くなってしもうた
心細かったやろ?」

「白石くん…戻って来てくれたの」

嬉しくて涙が溢れた。
そんな名前に近寄り白石はよしよしと頭を撫でてくれる。

「白石くんっ…!」

「もう大丈夫やで
なにがあっても離れへんからな」

そう強く言って笑う白石に名前はもっと涙が溢れた。
変なことに巻き込まれたけど、こんなに優しい人と一緒でまだよかった。
名前は心底そう思った。

「名前、俺がずっとずっと一緒やからな」

白石は涙を流す名前を優しく抱きしめそう言うのだった。

(150320)
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