小説 | ナノ

▼ 憧れの境地へ2

中3になって、彼女のようになったと思う。
教室で友人に勉強を教えたりくだらない話をしたりして学生の本分である勉学に励む。
テニス部では後輩から慕われレギュラーとは敵でありながら味方であり…切磋琢磨し合うのが日常で。
毎日が楽しい。

でも、なぜか寂しくなる。

心に風が通る。
サァッと静かな音が聞こえる。
どこからするのだろう。

放課後、部活に勤しんでいると、周りがザワザワと騒がしくなった。

なんだ?

テニス部のフェンスにファンがたくさんいるのは毎日のことだ。
だが、今日はテニス部に集まるファンが違う方を向いている。
休憩なので柳たちがベンチに集まり、ドリンクを飲みながらその騒ぎを見つめる。

騒ぎの中で、女性の姿が見えた。

立海大附属高校の制服を着て颯爽と歩く姿は、あの頃と変わらなかった。
前の代の生徒会にいたので、覚えている生徒もたくさんいるのだろう。
お久しぶりです、と言う声が聞こえた。

「名前、さん…」

「柳先輩知ってんスか?」

柳の隣にいた切原が柳に聞くも、柳には聞こえていないようだった。
そんな柳を気遣ってか、はたまた面白がってか、幸村がふふふ、と笑って言った。

「柳の憧れだよ」

「憧れ?」

切原が首をかしげると同時に柳は歩き出した。

ふらふらと足元がふらついてどこかおぼつかない。
早く、早く。
その気持ちに比例して、歩く速度があがりついには走り出した。

「名前さんっ…!」

名前の前で立ち止まると、彼女も驚いたように立ち止まった。
ハァッ、と息を吐き心を落ち着かせた。
目の前の彼女が、さらに大人びて見える。

あの日から、いつも焦っていた。
もっと大人になりたいと。

「え、柳くん…?」

「ええ、そうです」

「大人っぽくなったね」

名前が口元を隠してくすくす笑う。
こういうところは、あの頃からなにも変わっていない。
変わっていないのに、どんどん大人になる名前を柳は抱きしめた。

「や、なぎくん」

「急に申し訳ありません。ですが…ずっとこうしたかった」

ぎゅうう、と抱きしめると、名前の腕が柳の背中に回った。

「やっと名前呼んでくれたね」

「あなたが近くにいなくなったので…寂しさを紛らわせるために」

「そうなの?」

と言い名前が柳を見ると、柳は笑っていた。

「またお会いできて光栄です」

「今日は柳くんに会いに来たんだ」

柳が、俺に?と言うと名前が柳の腕を優しく掴んだ。
あの頃と同じだ。

「私柳くんが、」

「名前さん」

「…」

名前の言葉を遮り柳を掴む手に自分の手を重ねた。

「俺が言います」

「うん?」

名前が首をかしげると柳は小さく深呼吸して名前をまっすぐ見つめた。

「好きです」

「柳くん、私も好きです」

「ええ、知っています」

「え、なんで、」

名前が驚くと柳くすり、と笑った。

「だから俺を生徒会に誘った」

「バレたか…」

悔しそうに言う名前を柳はまた抱きしめた。

「ねえねえ」

「なんですか?」

「早く高校生になってね」

名前が優しく言うと柳は笑った。

「わかりました」

「待ってるね」

柳は彼女に近づくために早く高校生になりたいと思った。

(150318)
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