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▼ 憧れの境地へ

柳は担任に頼まれ事をしたので、教室で作業をしていた。
教室に新しい本を置くからなんの本が良いかアンケート用紙を作れだの、掲示板に貼る委員会ごとのプリントをまとめろだの仕事を押し付けすぎだ。

部活には弦一郎に伝言を頼んだので大丈夫なはずだが…、と柳はため息をついた。

柳はテニスがとても好きだ。
テニス部に所属しているということはそういうことなのだが。
だから、部活があるときは必ず最初から最後まで参加したい。
もちろん楽しいし、なによりこうしている間に誰かに抜かれたくない。
内面に熱い情を持っていたが柳は決して顔には出さなかった。

ガララッ

誰かがドアを開けた。
こんな時間に誰だ、と柳は顔をあげる。

「あ」

柳と目が合うとその人はあ、と声をあげた。
その人は立海ではよく知られている人物だった。
その人は生徒がいたのに驚いたのか、ドアを開けたまま柳をジッと見つめていた。

「…どうかしました?」

柳が問うと、はっと我に返った。

「生徒会が終わって帰ろうと思ったら電気がついていたから、気になって」

その人は生徒会の名字さんだった。
朝会や廊下でよく見かける。
笑顔が素敵でよくあいさつをする、模範的な生徒。
話すのは初めてだ。

「そうでしたか、わざわざ足を運ばせてしまい申し訳ありません。」

そう言って柳が頭を下げると名前は慌てて柳に近寄った。

「ちょ、そんなかしこまらないで!大丈夫大丈夫」

そう言って笑うと、名前が柳の机にあるたくさんのプリントを見つけた。

「…これどうしたの?」

名前がプリントのことを聞くと、柳はああ、と言って散らばっていたプリントを集めた。

「これは担任から頼まれた仕事です」

「え、こんなに?」

「…そうです」

「途中だったら手伝うよ」

「いえ、もう遅いですし先輩は早く帰った方がいいと思います。」

「んーでも柳くんも遅くなっちゃうよ?」

「いえ、俺は男なので…」

「…」

押し問答の結果、名前が納得がいかないような顔をして柳を見つめる。

「…そんな顔をされても、危ないのでだめです」

「そっか…」

見るからにしゅんとした名前を見て柳も眉を八の字にして困った。

「頑張ってね」

静かな教室で2人きりと、今更気付く。

「ありがとうございます」

なんだか恥ずかしくなってきた。
柳は知らず知らずのうちに名前に憧れを抱いていた。
噂では勉強もできていつも上位らしい。
教師からの信頼も厚く、非の打ち所がない。
強いて言えば、運動が少し苦手らしいが。

「ねえ、柳くん」

「…先ほどから気になっていたんですが、なぜ俺の名前を知っているんですか?」

そう聞くと、名前はあ、そっか、と言った。

「テニス部のレギュラーさんだよね?有名だよ」

にこにこ笑って話す名前がとても大人に見えた。
一つしか変わらないのに、艶やかな色気のようなものを感じる。

「あ、あの」

「?なに?」

柳が話しかけたので、名前は首をかしげた。

「生徒会は、楽しいですか」

少し頬を染めて落ち着きなく聞く柳を見て、名前はくすくすと笑った。

「んー…立海を良くしよう、って考えるのが楽しいし大変な仕事もあるし生徒にいろいろ言われたりするけど、楽しい方が大きいよ」

「そうですか…」

なにかを言いたそうな顔をしているのに言わない。
そんな柳の顔を見てなにか気づいたのか、名前が柳に近づき腕を優しく掴んだ。

「次の代の生徒会においでよ」

「え…?」

「待ってるね」

そう言うと名前がドアに引き返す。

「テニス頑張ってね、柳くん」

ばいばい、と手をふり去って行った。

もっと近づきたい、そう思った。

(150318)
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