小説 | ナノ

▼ 惑わせる人

「夜にこんな風に歩くと二度目にあったときのことを思い出します」

「そうですね」

酒を飲んだせいか柳蓮二の手は温かい。
それが柳蓮二の熱情的な部分を比喩したように感じてドキドキする。
あの時も柳蓮二が強引に送って行ったじゃないか、私はそう思うも黙っていた。
どんな理由でさえ、柳蓮二と一緒にいることが幸せ。
小さなことが幸せだと気づいて噛み締めている。

「どうぞ」

「お邪魔、します…」

お邪魔した柳蓮二の家は、見たところ必要最低限の物しかない。
家ではほとんど寝ることしかしないのだろう。
忙しいのだと改めて思う。
純粋に尊敬する。
テレビで見る柳蓮二はまったく疲れを見せない。
淡々とニュースを読み仕事をこなし世間に情報を与えている。
もちろんこうして会うときだって疲れなんて感じない。
どこで疲れを癒しているのだろう。

いつの間に酔いが回ったのか、1人で歩けない。
柳蓮二が肩を貸してくれソファに腰を降ろす。

「…」

面倒で言葉が出ない。
脱力しソファに身を委ねると柳蓮二が隣に座った。
柳蓮二とお茶の良い香りがする。

「大丈夫ですか」

「…」

柳蓮二の問いにこくりと頷いて返す。
酒を飲んでもこんな風になったことがない。
絶対に柳蓮二がくれた酒のせいだ。
差し出されたものは口にしないようにしよう。
私はそう決意しながら差し出されたお茶を飲んだ。
酔っていて矛盾していることに気づかない。

「酔ったみたいです」

「俺もです」

ああそう、そんな返事しか思いつかない。
もう起きていることが怠い。

「柳さん…大丈夫ですか」

「名字さんの方が大丈夫か心配ですが」

「…私のことより柳さんの方が心配です」

「それは今俺が言いました」

時折会話をするも、眠くて会話にならない。
ふと隣の柳蓮二を視界に入れる。
柳蓮二の唇は柔らかいんだろうか、優しいのだろうか。
思考回路が回らない中欲望だけが増していく。
静かに言葉を紡ぐその唇が無性に欲しくなった。
無機質なあなた自身から熱のこもったなにかが欲しい。

「名字さん」

「はい、…んっ」

柳蓮二はなにも言わない。
なにも言わなくてもわかるだろう、柳蓮二の目はそう訴えるように私を見る。
目が泳ぐ。
視界がグラグラして逃げ出したくなる。
どうしてこんなことをするの。

思ったことが実際に起こることなんて経験したことがない。
柳蓮二はなんでもわかるのだろうか。
私はグラグラする頭の中柳蓮二に抵抗する術を考える。
そうか、これは夢なんだ。
眠いと思っていたら眠ってしまったのね。
これが現実なんてあり得ない。

「やなぎ、さん…」

「あなたといると俺を抑えきれないんです」

どうして、そう聞けたならどれだけ良かっただろう。
柳蓮二の言葉に一喜一憂することが辛い。
今だって、理由もわからない突然の言葉に私は自惚れそうになる。
遊ばないで。
私の柳蓮二への憧れを踏みにじらないで。

「そういうの、よくない…」

「名字さん?」

「柳さんは、憧れ、だから…」

その後の記憶がない。
酔った頭でぐるぐると考え嬉しくなったり苦しくなったり忙しかったからだろうか。
私はふっ、とすべてを手放した。

「…おやすみ」

濁った感情で渦巻く私の耳に、愛しい人の声が聞こえた気がした。
現実か、夢か、誰か教えて欲しい。

(151103)
prev / next
[ Back to top ]


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -