小説 | ナノ

▼ 酔わせる人

「柳蓮二です」

「名字、名前です」

なにを飲みますか。
そう聞く柳蓮二を見ると初めて会ったときのことを思い出す。
少し強引だけど優しかった。
怪我の心配で強引になってしまったのだろう、今ではそう思う。

集まったのは精市さん、柳蓮二、真田さん、幸子、私。
他の旧友はどうしても都合がつかなかったらしい。
だから私は自分から誘うのが好きではない。

「ねえ知ってる?こいつアナウンサーなんだよ」

「おい精市…俺の話はいいだろう…」

「照れなくてもいいだろ?毎日お前がニュースを読んでいるのを俺は見てから出勤するんだ」

柳蓮二が精市さんの肩に手を置き注意を向かせるも、精市さんはその手をぽいっと振り払う。
精市さんはなかなか酔っていた。
飲むペースが早くよく喋る。
きっと再会出来て嬉しいんだろう。
楽しそうにする精市さんを見て私も楽しくなった。

「精市、蓮二に執拗に構うな」

「真田だってそうだろ?」

「それはまあそうだが」

精市さんを止めたのは真田さんだった。
しかめっ面をしてちびちび酒を飲んでいる。
こういう席が苦手なのかと思ったら精市さん曰く『女の子がいると途端にダメ』らしい。
精市さんから酒を取り上げて目の前に水を置くと精市さんはぶーぶー言い出した。
そんな精市さんに苦笑しながら柳蓮二は幸子に話しかける。

「ああそういえば…あなたは精市と同僚なんですよね」

「そうです、いつも幸村さんが助けてくださって…とてもありがたいです」

「一生懸命だから助けたくなるだけだよ」

柳蓮二と幸子が話している間に精市さんが割って入って来る。

「幸村さん…」

精市さんが幸子ににっこり笑うと幸子は手を組んで目をキラキラと輝かせた。

なにこの2人、私がキューピッドにならなくてもいい感じにくっつきそうじゃない。
幸子はなにを心配しているんだか。

ふう、と誰にもわからないようにため息を吐きジャスミンティを飲む。
こういう場は正直苦手だ。
人数が多いほど話すのが億劫になる。
私のつまらない話より他人の話の方がきっと何倍も面白い。
表面上はとても楽しそうにして、心の中で孤独を味わう。
辛い。

「名字さんに差し上げます」

「は…あ、ありがとうございます」

柳蓮二は私に酒を差し出した。
つるりとしたテーブルに指を滑らせ私の前に置く。
しっとりした赤い色のお酒。
艶やかなグロスのような、鮮やかなクランベリーのような色合いに私は驚く。
というかこれはどう見てもカクテルだ。

「なにお前、名字さんが気に入ったの?」

「うるさいぞ
精市、酔っているんじゃないか」

「お前たちに会えて嬉しいんだってば」

なにやらうるさい中一口飲むとぐわんと脳が揺れる。
甘くて美味しいくせに濃度の高い酒が入っている。
カクテルなんてそんなものだ。
表面を取り繕う嘘つき。
一体柳蓮二はなにを考えているの。
揺れる脳内で柳蓮二のことを考えると心も揺れた気がした。

「(やっぱり好きかも…)」

テーブルに肘をつき額を押さえる。
なぜそう思ったのかわからない。
けれど真面目で優しくて少し強引な柳蓮二に惹かれていることに間違いはなかった。



「柳、また会ってくれないと許さないから」

「わかっている」

「蓮二、その女性を頼んだ」

「わかっている」

精市さんと真田さんは柳蓮二にお節介を焼いているようだった。
本当にわかってるの?という精市さんの声にうるさい、と柳蓮二の声が聞こえる。

「名前気をつけてね」

「幸子こそ気をつけて」

「幸村さんに送ってもらえば大丈夫でしょ」

「真田さんかもね」

にやにや笑う幸子にそう言えば怒られる。
いいじゃない、真田さん素敵じゃない。
そう言うと幸子はかなり酔っているのか睨みつけてくる。

「ちょっと、応援してくれるんじゃないの」

「応援してるよ〜!ファイト!」

「雑だな〜」

バイバイ。
幸子はそう言って夜に溶けて行った。
この後3人でどこか飲みに行くらしい。
柳蓮二は明日も早いので帰るらしい。
ちょうどいいので私も抜けさせてもらった。

「…行ったか」

「?」

「お送りします」

すっと当たり前のように手を差し出されて私はその手と柳蓮二の顔を交互に見る。

「それとも、先日のお詫びと言ってはなんですが俺の家に来ますか?」

「え…」

「ここからだと俺の家の方が近いですよ」

この男、なにを言っているのだろう。
また私で遊んでいるのだろうか。

「仕事のために抜けたんじゃないんですか?」

柳蓮二にそう聞くと柳蓮二は笑った。

「名字さんとこうして2人で帰るためです」

私が表面を取り繕っていたのがバレていたらしい。
自分が抜ければちょうどいいと思った私も抜けると踏んだのだ。
完全に読まれていて言葉が出ない。
…そういえば精市さんと真田さん、柳蓮二のことを参謀だとか達人だとか言っていた。

「(このことか)」

柳蓮二という男は確率によるデータで他人の次の行動を割り出せてしまうらしい。
そして私もいつの間にかその確率によって柳蓮二の思うツボに嵌っていた。

私は明日休み。
もしかして誰かから聞いて知ってるんじゃないだろうな…。

「あの柳さん」

「なんでしょう」

「あの…いえ、なんでもないです」

私が休みだとご存知で誘ったんですか?
そんなことを聞いて墓穴を掘る訳にいかない。
ちょっとお茶をいただいて帰ろう。
私は差し出され続けていた柳蓮二の手にすべてを委ねるように自分の手を重ねた。

(151102)
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