小説 | ナノ

▼ 幸せになろうよ

注意*社会人設定

毎日仕事に追われ、上からの圧力で身長が縮んだのではないかと心配になる。
これ以上ぺこぺこしたら腰から折れるのではないか。
もういやだ。

珍しく休みが取れた。
毎日嫌がらせの如く禿げた頭をふり乱す上司もわかっているではないか。
謙也がその日休みと聞き、名前も休みを取るために上司にお願いしたのだ。

謙也も名前も休みで、謙也の車でドライブすることになった。

「浪速のスピードスターが運転したるわ!」

元気に言って名前の手を取り前を歩く謙也。
反対の手には車のキーをくるくる回している。
車まで少し距離がある。
手を繋いで歩くのもすごく楽しい。

「酔いそう…」

うぷっ、と吐くふりをすると謙也が慌てて名前の顔を覗き込む。
うっそー、と言って謙也に抱きつくと、うおっ!?と言って驚いた。

「スピードスターはめっちゃスピード出すんですか?」

「法定速度を守るに決まっとるやろ」

と言われた。

「よっしゃ、行くで!」

「オッケー!」

謙也はいろいろなところへ連れて行ってくれた。
よく晴れているので窓を全開にして2人で歌ったり買い物したり。
日頃の疲れなんてどこかへ吹っ飛んだ。

夜になり肌寒くなってきた。
ビルの灯りがちらちらと輝いている。
たくさん出かけて楽しかった。
夜ご飯を食べたのでもう帰るのだろうか。
運転席と助手席で自然と手を繋いだ。

「どこ行くの?」

「もう少しやで」

今まで教えてくれたのに急に行き先を教えてくれなくなった謙也を見つめる。

「謙也ー?どこ行くのー?」

「しーずーかーにー」

繋いだ手のまま謙也が口元に持って行きシィ、と人差し指をあてた。

「名前サンもう寝ますね」

「アカン!!!!」

「なんで?」

それは…、と謙也が口ごもる。

静かに車が止まり謙也を見つめると謙也もこちらを見た。

「ここや」

「?どこ?」

窓の外を指差すので見れば、そこは海だった。

「海…?」

「ほらほら、行くで」

謙也が降りようとするので名前も車を降りると予想以上に寒かった。
ブルッと身震いすると謙也が近づいて肩に謙也の上着をかけてくれる。

「ありがとう」

「…こっちや」

いつもより真剣な顔をして名前の手を引き砂浜をゆっくり歩く。

ざくざくと歩くたびに砂が鳴る。
夜の海。
真っ暗でなにも見えない。
謙也が手を引いてくれないと、砂や海に足を取られそうだ。
こんなに広い場所なのに誰もいないことに、ドキドキした。

謙也が歩くのをやめて名前を振り向いた。
お互い見つめ合うだけの静かな空間。
ザザァ、と波が砂をかき乱す。

まるで、名前と謙也の心のように。

「なあ…俺ら結婚せえへん?」

「え…?」

名前の両手を謙也の大きな手が包む。
謙也のブリーチした髪が波風になびいて綺麗だ。

「ずっと、ずっと一緒にいてほしいんや」

名前が口をぱくぱくして謙也を見る。

「けんや…」

「俺と結婚してください」

眉を八の字にして名前を見つめる。
名前の目から涙が溢れた。

「おねがい、しますっ…!」

そう言うと、謙也が弾けるような笑顔で名前を抱きしめる。

「幸せになろうな」

「うんっ」

ぎゅうう、と名前が謙也を抱きしめる。

2人の影が海に溶けた。

(150317)
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