小説 | ナノ

▼ 秋は過ぎ去り冬が来る

少しずつ寒くなるこの季節に、昼の日差しは優しすぎるほど暖かい。
畳にうつ伏せになって本を読む。
窓から入る日差しがこの部屋を照らしてくれた。

「ねんむ…」

うとうとしながらも時折先ほどの眠気が嘘のようになくなるとき、胸の鼓動が畳を叩く音が聞こえる。
ドクドクとゆっくり鳴る音は冴えた名前の頭を再びまどろみに誘った。

柳は別室でパソコンに向かっていた。
パソコンの独特の光が目を差す。
柳はパソコンで作業をしなければならないとき以外はあまり触らない。
あの光が嫌いなのだ。
目の奥が重くなるような、脳が酸素を欲するような、とにかくあくびがたくさん出る。

あくびが出るということは、脳が酸素を欲しているんだな。

自覚しながら進めていると、程なくして作業が完了する。
ふう、と息を吐き両手を天井に伸ばし大きな深呼吸をした。

「暖かいな」

窓の外を見ると青空が広がっている。
こんな良い天気だと名前は眠いと言いそうだ。
自分の予想がかなりの高確率で当たっているだろうと思うと笑いそうになる。
そういえば、と名前を1人にしていることを思い出し、柳はパソコンの電源を落とし椅子から立ち上がった。
きっと眠っているだろう彼女の元へ向かう。

「眠って、いるのか」

名前の元へ行くとやはり眠っていた。
あどけない寝顔に自然と頬がほころぶ。
自分の予想は当たっていた、と喜ぶと同時に可愛い寝顔を見ることが出来て良かった、と思う。
名前にあたる日差しの方を見ると、こちらの窓からも暖かな日差しが差し込んでいる。
少しだけ開いた窓から柳はベランダに出た。

この季節の風はやはり冷たい。
風は柳の寂しい首元を通り抜け部屋に入って行く。

「蓮二」

「…起きたのか」

「さむい」

「もう冬だからな」

柳はそう言うとふ、と笑った。
柳が窓を大きく開けたので、名前は起きた。
まだ眠気が抜けきらないまま柳の後を追いベランダに出た名前は、先ほどの幸せな暖かさとはうって変わった外気にふるりと震えた。
ぼうっとした眠気を拭い去るには充分だったようで、柳が再び名前を見たときにはいつもの顔があった。

「パソコン終わったの?」

「ああ
名前は終わったのか?」

柳が聞くと名前は途端にムッとした。
今の今まで寝ていただろう。
こういうわかりきった質問をして名前を怒らせる。
柳は意地悪だ。

「寝てた人にそれを聞くの?」

「拗ねる顔が見たかっただけだ」

柳の言葉に名前が意地悪、と呟くと柳は笑った。
なにか仕返しをしてやろう、そう思った名前は今発見したかの如く青空を指差した。

「ねえ見て、鳥が」

「…見当たらないが」

「まあ嘘だしね」

柳が名前の指差す先を見ても、青空が広がるばかりだ。
ふふふ、と無邪気に笑う名前を柳は抱きしめた。
名前が突然のことに驚いていると、柳はため息を吐く。

「嘘は感心しないな」

「蓮二に勝ちたかったので」

悪びれもせず言い放つので腕に力を入れ、黙れと言うように抱きしめると、腕の中で「ぐえ」と聞こえた。
間抜けな声に思わず溢れ出す笑いを堪えると、名前は無理矢理腕から抜け出そうともがく。
柳の腕からなんとか顔だけ出すと名前は柳を恨めしそうに睨んだ。

「笑わないでよ」

「気づいていたのか」

「震えてるからわかるよ」

音もなく笑う柳に名前は再びムッとした。
名前は柳の広い背中に手を回し、これ以上余裕がないというように抱きついた。
ぐぐぐ、と柳の胸に押しつけた鼻が行き場をなくし痛いと叫ぶ。

「蓮二といると負けすぎて悲しい」

「俺は名前にいつも勝っているとは思わないが」

余裕綽々な柳の言葉に名前はやはり不服そうにした。
この悔しさと恥ずかしさをどこにもぶつけることも出来ず、名前は目の前の柳の匂いを感じる。
柳の服に埋もれ大きく息を吸うと、柳の愛用する匂い袋の香りが体内に広がった。

「…良い匂いがする」

「その言葉、そのまま返そう」

柳は答えると名前の髪に顔をうずめる。

「ちょっと、やめて」

「…意地悪なのは名前だと思うがな」

「もう…寒いから中入ろ」

名前は柳からすり抜け部屋に入ろうとする。

「名前」

「ん…?」

柳の声に名前が振り返ると大きな影が覆う。
柳が日差しを遮り名前の唇に同じものを重ねた。

「…蓮二、」

「おはよう、を言い忘れた」

「…おはよう…」

「ああ、おはよう」

驚きで唇を噛み目をそらす。
名前の言葉に満足すると柳は名前の頭を撫で部屋に入った。
なんだかかなり恥ずかしく、負けた気持ちになりしばらく窓に張り付いていると、なかなかベランダから戻らない名前を不思議に思ったのか柳が声をあげる。

「早くこっちに来い」

「誰のせい…」

柳の優しい催促に名前は部屋に入り窓を閉めた。
名前の呟きはいつの間にか現れた鳥が聞いていた。

(151027)
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