小説 | ナノ

▼ 最低な唇

注意*緩い近親相姦、緩いR15

無機質な機械、少し汚れたインターホン。
それを今日も緊張を隠し震える指で押す。
ピンポーン、と感情なんてあるはずのない音が鳴り響く。
数秒するとインターホンの持ち主が玄関の鍵を開ける音がする。
彼には似合わない、やはり少し汚れたドアは音もなく開いた。

「…来たのか」

「ダメだった?」

「別に」

彼はそう言ってドアから離れキッチンへ向かった。
勝手にしろということなのだろう、名前は自分の重さで閉まろうとするドアの隙間にするりと滑り込み、背中越しにドアの閉まる音を聞くと振り返り鍵を閉めた。
そしてチェーンも。

「名前…」

チェーンをかけていると、いつの間にか戻って来た彼が名前の背中に体重をかけながら抱きしめる。
女の名前が男の彼の重さに耐え切れる訳もなく、玄関に手をついた。

「まこと、」

「んだよ」

「おも…」

名前がなにを言っても聞かない。
彼は昔からそうだった。

彼とは名前が小さな頃から一緒に過ごして来た。
彼の周りには名前以外にも何人かいとこがいた。
しかしいつからだろうか、彼は名前を見ていた。
ただ見ていた訳ではない。
彼は名前を特別な目で見ていたのだ。

一人っ子な名前はいとこ同士で集まることが大好きだった。
学校でなかなか友人が出来ず、そもそも友人といることによってどんな効果があるのだろうか、そんなことを考えているとますます友人は出来なかった。
もう友人なんていらない、作る必要性がない、そう考えつつもやはり嬉しいことや悲しいことを同年代に話したいという気持ちがあった。
だからいとこたちと話すことが名前の癒しであり楽しい時間だった。

名前はいとこの中ではちょうど真ん中あたりの年齢だった。
歳上のいとこは大人しい名前を可愛がった。
歳下のいとこは名前をお姉ちゃんお姉ちゃんと慕った。
本当にいとこたちが好きだった。

中学に入った頃からだろうか。
名前はある男が気になった。
彼はいとこの中で一番歳上だった。
いつも本を読みいとこたちとの遊びには参加しなかったが、時々感情の読み取れない目で自分たちを見る目が名前は好きだった。

「(お兄ちゃんみたい)」

遊んで、とせがまれると嫌な顔をしながら遊んでくれた。
優しい兄のようで慕っていた。

「真なに読んでるの?」

名前が話しかけると、彼は本から目を離し名前をジッと見つめた。
それほど瞬きをしない目に吸い込まれそうな感覚に襲われる。

「…宇宙がどれくらいの速さで膨張するか」

「へえ…宿題が出たんだけどね、わからないところがあって教えてほしいの」

「持って来い」

彼、真はそう言うと再び本に目を落とした。
誰かが話しかけなければ声も聞けない、目も合わない、集まりが終わればすぐにふらりといなくなってしまう。
名前はいつの間にか真を求めていた。
そしてその感情がなんなのか、否、真を求めていることにさえ名前は気づかなかった。

「この基本の公式に代入して出た答えをこっちの公式に代入すると出来る」

「…あ、本当だ、出来た」

「お前はよく読まないで解くから出来ねえんだよ
落ち着けば解けるんだから問題文をよく読め」

「ありがとう」

いとこたちが遊んでいるリビングから、真と名前は真の部屋に移動した。
真の匂いがする。
黒を基調としたシンプルな部屋に、ガラスの机が存在感を放つ。
ただの勉強机だというのに無駄にオシャレに見えるガラスの前に座ると真は名前の後ろに立ち教えてくれた。
骨張った白い指が名前の教科書の上を滑り、時折名前のシャーペンを操り美しい字を書く。
名前の解いた問題を覆い被さるように見る真に、名前はドキドキした。

「名前」

「なに…?」

真は名前を呼んだ。
名前の顔を覗き込むように呼ぶので顔が近い。
昔から美形だとは思っていたが、こんなに近くで見たのは初めてだ。
真っ黒な髪と瞳は蛍光灯の光を受け輝き、白い肌は陶器のようだ。
すっと鼻筋が通り薄桃色の唇は名前の唇に触れてしまいそうだった。

「お前…俺と同じだな」

「え…?」

「…なんでもない」

真はパッと離れそのまま部屋から出て行った。
意味のわからない言葉を言われ、あり得ないほど近づき、名前はいとこである真に胸の高鳴りが隠せなかった。

それから真と会うとよく目が合った。
真は名前になにか訴えかけるように熱視線を送る。
名前はその度に目を泳がせ、逃げるように目をそらした。
まるで名前の心臓の音が聞こえているかのように、真は名前を見る。
名前は恥ずかしくて仕方がなかった。

「名前」

「…なに…?」

「俺の部屋に来ないか」

名前は正直戸惑った。
毎度熱視線を送る真に対し、体が反応する。
熱を持ち、真を求め、息が苦しい。
本当はなぜなのかと理由と聞きたい、嫌だと拒否をしたい。
しかし真にワガママを言ったところで聞き入れてもらえることもなければ断る正当な理由もない。
名前は真の言う通りにするしか方法はなかった。

「わかっ、た」

名前がぽつりと答えると真は名前の手を緩く握り自分の部屋に誘導した。
そんなことをしなくても真の部屋はわかるのに、逃げないのに、なぜか振りほどけなかった。

誰もいない真の部屋はもちろん暗かった。
ドアの近くにある電気も点けずに、真は繋いでいた名前の指を引っ張り壁に押しつけた。

「まこ…、んむっ」

真、そう言う暇もなく名前の唇は塞がれた。
初めての感覚、どこから息を吸い吐けばいいのかわからずとにかく強く目を閉じた。
冷たい雰囲気を纏う真から柔らかい感触を味わうことに違和感を覚える。
胸がざわつく。
真の唇がゆっくり離れると、名前は少しだけ目を開けた。

「これがどういうことかわかるか」

「…なんで…」

「お前をずっと見てた」

「…」

なにも言えない、なにも言えるはずがない。
こんなとき、なんと言えばいい?
クラスメイトから言われるのと訳が違う。
身内からの好意に嬉しくないはずがない。
しかしこの好意はどうだろうか。
これはいけない好意なのではないか。
名前は真より未熟な頭で必死に考えた。
名前は優しい。
真を傷をつけないようにやんわりと断る方法を脳内から探した。

「名前…」

しかし真はそんなことはわかっていた。
名前が優しいことも、戸惑うことも、断ることも。
そして名前は逃げることは出来ない。
なぜならば真に好意を抱いているからだ。
真の真っ黒な目には名前の怯えた表情が映っていた。

「真、やだ…」

「なにがだよ」

「そ、れは」

「名前、お前俺のこと好きだろ?」

真が名前の耳元で囁くと名前はビクリと震える。
やはり真には名前の心の内が見えているのか、名前をどこからも逃さないように囁いた。

「名前…俺の気持ち、もうわかるだろ…?」

「や、だ…だめ…」

「なにがだめなんだよ?」

真の低くどろりとした甘い声は名前にとって毒でしかなかった。
名前には甘すぎてとろけてしまいそうで、震えることしか出来ない。
そんな名前を真は腕に閉じ込めながら冷静に見下ろしていた。
すべてが真の思惑通りにことが運ぶ。
真は笑いを堪えるのに必死だった。

それから真と名前は誰にも秘密で付き合うようになった。
真は一人暮らしを始めた。
真は好きという言葉や付き合おうといった言葉はすべて名前に言わせた。
体を重ねるのも、名前が言った。
真は用意周到であり、そしてそれを悟られないようにすることが上手かった。
名前はそんなことには気づかず、真の意地悪な性格のせいだと思っていた。

「名前、いい匂いがする」

「?なにもつけてないよ」

「お前がいい匂いなんだよバアカ」

真はそう言うと名前の首筋に顔をうずめ、すうっと息を吸い込んだ。
真の髪があたってくすぐったい。
名前は身を捩りながら真の言葉に答えた。

「わ、私は真の匂い好き」

「男の匂いのどこがいいんだか」

真はひらりと体を離しキッチンからマグカップを両手にリビングに向かった。
名前は未だ玄関に寄りかかったままだ。
真の勝手に名前は何度も何度も付き合わされた。
名前はため息を吐き靴を脱いだ。

「母親になんて言って出て来た」

「友達の家に泊まるって言って来た」

「へえ」

真は興味なさそうに答えマグカップの中身を口にした。
真は名前に頻繁に泊まるように言った。
泊まる度に親に嘘を吐く名前を見るのが面白いのか、真はにやりと悪い顔をする。
それさえも名前の胸を高鳴らせる材料にしかならない。

「お前って悪いやつだよなあ、親に嘘吐いてまで男といるなんて」

「はあ?それは真が泊まらないと別れるとか言うから…」

「嫌々なら来なくていいんだぜ?」

「別に…そうとは言ってない、」

名前が断ろうとすると名前に不利な交換条件を出してくる。
だから断れない、言う通りにするしかない。
名前は自分を真のおもちゃのようにしか感じることが出来なかった。

「ふーん、まあこんなに濡らして嫌って言われても説得力はないな」

「!?ちょ、やだっ」

「はあ?だから説得力ねえよ」

「ん、あっ」

真の長い指は名前の秘部を撫でた。
真に開拓された体は真のすべてに反応する。
それをごく自然のこととされたのが悔しくて、同時に真をとてつもなく求めていた。
早く、早く真が欲しい、と。

「ま、まこと…」

「あ?」

「早く…ちょうだい、」

名前が小さな声で言うと真は例の如くにやりと悪い顔で笑った。
真は濡れそぼった舌で自分の唇を舐めると俯いた。
耐え切れないのか喉の奥でクツクツと笑う真の色気で名前の秘部はやはり濡れるのだ。

「よく出来ました」

真の赤い舌は名前の柔らかな唇を舐めゆっくりと下に降り、これから始まる秘密の交わりに名前は息を呑むのだった。
そして名前を弄ぶことでしか愛すことの出来ない真も。

(150902)
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