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▼ 君の理解の外

注意*暗い、山崎が失恋

花宮と名前が付き合っているらしい。
廊下を2人で歩いてるところを見たし原から聞いた。
驚きで全身が冷えた後、イライラで頭が沸騰しそうになった。
はらわたが煮えくりかえるとかよくわからない言葉が頭に浮かんだ。
この言葉を使ってたのは花宮で、まさか花宮にそんな感情を抱くとは思ってもみなかった。
なんで一瞬見てはいけないものを見てしまった感覚に陥ったのかは知らねえが、今は怒りしか感じることはない。
切ない、苦しい、おかしい。
好きだった、いや今も好き。
優しくて柔らかな笑顔が好き。
『山崎くんってバスケしてるとき輝いてるね』
何気ない普通の会話だったんだろうが、俺には嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
俺に笑いかけてくれることが嬉しかったんだ。

勉強が出来てバスケも悪童とか無冠の五将って言われるくらい上手くて誰からも好かれてる。
花宮はいる人。
名前だって花宮から必要とされているから要る人。
その点俺は?
勉強はそこそこ、バスケも特別上手いワケじゃねえ、なにか秀でているものがあるワケでもねえ。
俺はいらない人。
そうだろ?
だから上手くいかないんだろ?
花宮と同じことをしたって俺は輝けない、敵わない。
俺がなにしたっていうんだよ?
普通に生きてて普通にバスケやって、普通に好きな人が出来て。
なにも叶わない、成功しない。

いろいろ考えて頭はぐちゃぐちゃ混乱した。
頭の中で花宮を殺した。
名前も殺した。
俺の頭の中みたいにぐちゃぐちゃにした。
涙が出た。
好きな人だけど、知らない。
俺のものにならないなら知らない。
俺が惨めになるならいらない。
強がっているのはわかっている。
わかっているから、涙が止まらなかった。

「よお、ヤマ」

「お、おう」

花宮が自慢するかのように名前と腕を組んでこちらに歩いて来る。
なににやにやしてんだよ、花宮気持ち悪ぃ。
色恋だの面倒くせえって言ってたの誰だよ。

「?どうした、元気ねえじゃねえか」

「花宮くんも人の心配をするの」

「うるせえな、」

名前がくすくす笑いながら言うと花宮は片手を首の後ろに回して気まずそうにした。
なんでだろう、なんでここにいる?
殺したはずのやつが現れてなにも言えなかった。
もう会わないと思ったのに。

「お前死んだはずじゃ…」

「はあ?」

「山崎くん…どういうこと?」

「う、わあああ、」

逃げた。
でも逃げても逃げても花宮と名前の死に顔は消えなかった。
そしてさっきの不思議そうにした顔も。
俺はどうしたと言うのだろう。
あいつらは死んだんじゃないのか?
…ああ、そうか。
現実と妄想の区別がつかなくなったんだ。

誰にも会わないように屋上に逃げた。
鍵をかけて、冷たいコンクリートに大の字になって寝る。
頭を冷やせよ、俺。
今まで上手くいかないことなんてたくさんあっただろ。
それと同じだよ、そういうときはいつも無理矢理忘れたじゃねえか。
忘れろ、忘れろ。

ーーー

「ヤマはどうした」

「さあ、知らないな」

花宮が静かに聞くと古橋が本から目を離し答えた。
もう部活の時間である。
山崎以外の4人はすでに集まっており、机に向かって座り各々のことをしている。

「原、ヤマから連絡は」

「ないよん」

「瀬戸、」

ふっと花宮が瀬戸に視線を移すと瀬戸はゆらゆらと動かしていた頭を止めて花宮を見つめた。
ぼーっとしてはいるが話を聞いているようだ。

「ごめん、知らない」

「連絡するか…」

花宮はそう呟きスマホをさらさらと操作した。

『ヤマ、今どこだ?』

いつもの山崎なら、すぐに返事があるというのにまったく返事が来ない。
他のメンバーも同じような文を送ったが、結果は同じだった。

結局山崎は部活に顔を出さなかった。
探そうと考えは過ぎったが部活があるのでとりあえず様子を見た。
そうしたら来ない。
こんなことは初めてだった。
どんな酷いラフプレーを押しつけてもバスケからは逃げなかった山崎が理由もわからず休んだ。
4人は互いになにも言わなかったが心配した。

ーーー

「あー…」

我ながらバカだと思う。
忘れようと頭を働かせていたらいつの間にか寝ていた。
暗えし寒いし…部活と家からの連絡がすげえ。

「名前…」

空に手をのばして呟く。
俺の手には届かなかった。
それは最初からだったのか。
それとも途中で、自分でも知らないうちに逃げたじゃねえか、そんな気がしてきた。

「やっぱ自分のせいかな…」

「なにが?」

「っ!?」

返事があったことに驚いて慌てて起きた。
しかも話の本人が現れた。

「な、なんでもねえよ」

「そう?なにか考えてるみたいだったよ」

気まずい。
変なこと言った後だからなおさら緊張する。

「それより花宮は?一緒に帰んねえの?」

「うん、部活終わるの待ってたら遅くなるからさっさと帰れ、って」

「へ〜…」

ほんっと好きなやつには優しいんだな。
花宮って無意識のうちにえこひいきヤバそう…。

「花宮の言うこと守んねえでいいのか?」

「彼氏だからって花宮くんが私のすべてじゃないでしょ?」

「…はあ?」

名前ってこんな感じのやつだったか?
結構自由なやつなんだな。

「花宮くんの言うことを100%聞く必要はないってこと」

名前は笑った。
やっぱりきれいだ。
でもその笑顔は俺のものにはならないんだろ?
わかってる、もういいんだ。
俺はもう忘れたから。

「お前面白えな」

「そう?」

「ああ」

好きとか抜きにして、俺はこの複雑な感情を抱えたまま名前に少し近づこうと決めた。
いつか、振り向いてくれるなんていらないから、少し、近づきたい。
この願いだけは叶えさせてくれよ。

(150701)
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