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注意*成人設定

久々に霧崎のレギュラーメンバーで集まり、人気の少ないバーでゆったりと6人で酒を飲んでいる。

「やっぱりお前らずっと付き合ってたか」

花宮が大きな氷が入った小ぶりなグラスを片手に名前と古橋を見る。
花宮の言葉を受け瀬戸、原、山崎の3人は花宮と同じように酒を飲みながら2人を見つめた。

「意外とかそういう考えなんて一切思わせなかったね」

瀬戸が呟き自分のグラスを一気に煽った。

「古橋って顔に似合わずいちゃいちゃしたがるよな」

「ザキが古橋をけなしてまーす」

山崎が真剣な表情で無表情な古橋を見つめると原がバカにする。
懐かしかった。
こんなふうになんでもない高校生のように話をするのが楽しい。
若さを遠くに置いてきたような、日々の疲れがただ溜まっていくような年齢に差し掛かってきた。
それでも時々、忘れた頃に全員で集まる。
昔からの仲であるし、今同じ職場でないおかげでなんでも話せるところが全員気に入っていた。
6人で集まるときだけは歳を忘れた。
自然とあの頃に戻った気がしてバカなことをして、すぐ疲れる体ではっと現実を思い出す。
あの頃がずっと続けばよかったのに。
なぜ人は歳をとってしまうのだろうか。

「?古橋さっきからノリ悪いな」

「飲みすぎたみたい」

山崎が古橋の両肩をゆさゆさ揺らそうとするのを名前が遮り言った。
山崎はそうか、と言って酒を飲み息を吐いた。

「てかさ、ほんと仲良いよね〜」

ずっと一緒にいんじゃん。
原は頬杖をつきにやにや笑いながら名前と古橋を観察していた。
古橋が珍しく俯いている。
羽目を外して飲みすぎたのだろう。
「大丈夫?」と名前が小声で聞き肩に手を置くと、俯いた顔をあげ「大丈夫だ」と答え肩の手を握りテーブルに絡めた手を置いた。
仲睦まじい夫婦のようだった。
いや、もう夫婦なのだ。
来週、彼らは結婚をする。

とろんととろけた目を名前に向ける古橋を見て、元チームメイトは「これはダメだ…」と心の中でため息を吐いた。
古橋は早く2人になりたそうに名前を見つめる。
完全に酔ったのだと確信した彼らは静かに席立った。
生憎、ここで長居をせずとも来週また会うのだ。
集まりたければ、話したければそこで集まり話せばいい。
今度は綺麗に白で着飾った2人と、その2人を祝う4人として。

学生の頃から付き合った人と結婚することが長年の夢だった。
互いを知り尽くしてはいたが、環境が変わるごとに喧嘩をした。
何年付き合っていても理解し難いことや、反対に共感することが多々あった。
好きなものが同じだったときの喜び、それを共有すること、切磋琢磨し互いを高め合うこと。
くだらないことで喧嘩したことだって、いつか互いのためになる。
そんな恋愛をしたかった。

「名前」

「なに?」

なにもないのにただ名前を呼びたくなる。
ただ笑顔が見たくなる。
隣にいてくれるだけでいいと思う。
高望みをしない、何気ない2人で過ごす日々が幸せなんだとともに感じられる人に出会いたかった。

「もっと近くに来てくれ」

「う、うん」

好きで好きで苦しい。
涙が出そうだ。
俺は結婚をする。
俺の小さな頃からの夢がもうすぐ叶う。
ちっぽけな、小さな、安い夢だと言われてもいい。
俺は、名前と結婚出来ることがなによりも幸福で、冷静に息を吸うことさえ躊躇われるような満足感に満たされている。
苦しい。
幸せで苦しい。

「…名前は可愛いな」

「…うん?」

「すきだ」

今まで無表情と言われてきたがよくわからなかった。
だが今は感じる。
自分の顔が笑っているのを感じる。
笑顔にならずにはいられない。
名前と過ごす1秒も、名前と目を合わせる1秒さえも俺を笑顔にさせてくれる。

「すきだ」

「康次郎…」

ああ、名前を呼ばれることがこんなに心を温めるものだっただろうか。
いつも呼ばれているのに、なぜ愛おしさが溢れてくるのだろう。
名前の声が俺の鼓膜を震わせる。
柔らかな声で俺を癒す。
このまま雲の上で眠ることが出来そうな、ふわふわと気持ちが浮つく。

「私も、好きだよ」

「ありがとう」

この会話を俺たちは出会ってから何度しただろうか。
数え切れないほど、そう答えられたならいいのだろうが俺たちはそこまで感情を露わにせずに付き合ってきた。
なにも言わなくても互いに気を使っていたような気がする。
わざと気を使って話すとそれに気づくのか気を使った返事が返ってくる。
一種の遊びのように互いを思いやることを自然とやっていた。
優しい付き合いだった。

…そういえばどきどきと心臓がうるさく鳴りながらキスをしたのはいつが最後だっただろうか。
同棲してから家族という意識が高まりどきどきと胸が高鳴ることがめっきり少なくなった。
キスをしてもなんとなく違和感があり、緊張ではなく気まずさでどきどきと心臓がうるさかった。

たまには外でするのはどうだろうか。

「名前」

「ん?」

呼びかけると首をかしげ俺を見る。
そんなところは何年経っても変わらない。
仕草や咄嗟の行動から昔が蘇り時々切なくなる。
同時に昔から一緒にいたということを再確認させられ、名前と人生をともに出来て嬉しく思う。
ああ、やはりなにをどう考えても名前が好きだ。
昔の俺は本当によくやった。
俺のような面白味のないやつがよく理想の人と付き合えて、そして結婚出来たものだ。
しみじみと今までの人生のことやこれからのこと、名前のことを考えると名前がどうしようもなく好きで、大切で、俺の一部であることを痛感させられた。
俺にとって当たり前のように必要な存在。

酒で上気した名前の頬を両手で包むとさらに熱くなった。
照れているのか。
ゆらゆらと目線を宙に泳がせ目を合わせようとしない。

「名前」

「な、なに…?」

明らかになにかされるのがわかっているのか名前が警戒気味に答えるので笑ってしまった。
くすくすと笑うと名前がやっと俺を見てくれる。

「好きだ」

「それはさっきも、」

ちゅ

「これからもよろしく」

名前の言葉を遮るとキスをする。
相変わらずの柔らかな唇で俺を受け入れてくれる。
普通の口付けなのに緊張した。
俺もこんなに人を愛せるのだと気づかせてくれた。
ありがとう、と何度も言った。
これからも俺についてきてほしい。
俺の『家族』に、なってくれ。

(150630)
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