小説 | ナノ

▼ なにができるだろうか

今日は古橋くんの誕生日です。
彼女の私はなにをしてあげられるかと1ヶ月前から考えていました。

「(なにをしてあげられるかな…)」

この1ヶ月、古橋くんをいつも以上に意識して見てきました。

この間帰り道に
『あ、猫だ』
『えっどこ!?』
『あそこで寝てる』
そう言って2人で猫を見つめました。(その後猫が起きて逃げたので2人で追いかけました。)

つい先日、古橋くんが私にお昼ご飯を作って来てくれました。
『良かったら食べてくれ』
『いいの…?部活で疲れてるのに、ありがとう』
『俺が作りたかったんだ、気にしないでくれ』
優しい古橋くんの作ったお昼ご飯は優しい味で、午後の授業は全部寝ました。(先生と古橋くんに怒られました。)

昨日は古橋くんの家にお呼ばれしました。
『ガーデニングをしていたら名前に見せたくなった』
古橋くんはそう言って私を庭に案内して元気に咲く花々を見せてくれました。(ガーデニングのお手伝いもしました。)

この1ヶ月を思い返してみると、私はいつも古橋くんに楽しいことや嬉しいことをしてもらってばかりで、私はなにもしてあげられていません。
私はとても受け身なお付き合いをしていたようです。
…どうしたらいいか、ここはみんなに相談してみよう。

「原くん!」

「あ、名前ちゃん、なに〜?」

「あのね、」

相談してみると原くんは「古橋って案外甘いから名前ちゃんならなんでも許すんじゃない?」と言われました。
なんて…抽象的な…。
私の判断に任せるってことですよね…。
原くんの答えに頭を悩ませていると瀬戸くんが私たちのところに来てくれました。

「名前ちゃん、頭抱えてどうしたの?」

瀬戸くんが原くんの隣に来ると原くんは瀬戸くんの肩に腕を回してガムを膨らませます。

「瀬戸くん…!原くんが抽象的な答えを出すから!」

「俺はこれがベストアンサーだと思うけど?」

「はいはい、どうしたのか教えてね」

私が瀬戸くんに説明すると「うーん」と唸って「古橋ってなかなか心開かないから、俺たちの前の古橋と名前ちゃんの前の古橋が同じとは限らないんだよね」と言われて私は驚きました。

「え、そうなの?」

「うん、俺たちに対しても壁はあるよ」

すると原くんが通りがかった山崎くんを引っ張って来ました。

「ザキの考えも聞くつもりだったでしょ?
連れて来たよん」

「痛えよ!
で、名前どうした?」

原くんに引っ張られた耳をさする山崎くんは痛がりながらも心配してくれます。
優しい…。

「山崎くん、ごめんね」

「ザキの純粋な意見もほしいところだね」

山崎くんに言うと「古橋のあれは天然だ、間違いねえ」と言われてどうしたらいいのかわからなくなりました。
甘くてなかなか心を開かなくて天然、とは…?

「おい、お前らうるせえ
周りに迷惑だ」

「は、花宮くん…!」

「よう、名前」

神様仏様花宮様!我らのリーダー!
花宮くんにこれまでのことを説明し困っていることを言うと花宮くんは笑いました。

「お前の気持ちがこもってれば古橋は嬉しいだろうな」

「俺と花宮同じ意見じゃん」

ねー、と原くんが花宮くんを見つめると花宮くんはしぶしぶ頷きました。

「え、俺もそういうつもりで言ったけど」

「つーか名前って良い彼女だな」

「ザキしんみり」

山崎くんがくすくす笑う原くんの頭を叩いて痛そうです。

「なにをしているんだ?」

「古橋くん!」

振り返ると古橋くんがいて、古橋くんと呼べば4人は気まずそうな顔をします。

「ザキと花宮はいつになったら名前を呼び捨てにするのをやめるんだ」

「俺の勝手だろ」

ふはっ、と笑う花宮くんを遮るように瀬戸くんが古橋くんに近づきます。

「あー古橋、ちょっと俺たちが名前ちゃんにちょっかい出してただけだから」

怒らないで、と言うように古橋くんをなだめる瀬戸くんがなんだかいつもより小さく見えます。

「ちょっかいを出すな」

「めんご〜」

原くんがひらひらと手を振り謝ると古橋くんが私の肩を後ろから掴んで引き寄せます。
近い…古橋くんの、体温が…。
ちらりと4人を見ると『がんばれ』と口パクで応援してくれました。
よし、頑張る、私は古橋くんをきっと喜ばせてみせる…!

「ふ、古橋くん、あのね、2人で話したいことが…」

「ああ、わかった」

古橋くんを見上げると古橋くんはうっすらと笑い快諾してくれ肩に手を置いたまま移動しました。

「話はなんだ?」

「あのね…お誕生日おめでとう」

「…ありがとう」

少し間があったのでどうかしたのかと古橋くんを見るといたって普通なのです。

「…驚いた?」

「ああ」

冗談で聞くと素直に肯定されたので笑ってしまいました。
古橋くんの表情をもっともっと見てみたいな。

「無表情なのに?」

「うるさい」

そう言って古橋くんは私を抱きしめてくれます。

「あいつらと仲良く話していたからどうしたのかと思った」

「あの…古橋くんの誕生日になにをしてあげられるかな、と」

「そんなこと気にしなくてももういつももらっているさ」

どういうことなのだろう?
私が首をかしげると古橋くんは再びぎゅっと抱きしめてくれます。

「名前のいろいろな表情を見られるだけで幸せだ」

「古橋くん…嬉しい」

私がそう言うと古橋くんはふふ、と笑いました。

「そうか」

古橋くんは離れると私の手を握ってくれます。
私を引っ張ってくれる古橋くんの優しさが好きです。

「一緒に帰ろう」

そう言って振り返る古橋は笑っていました。
私こそいろいろな表情が見られて幸せなのです。

(150630)
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