小説 | ナノ

▼ 代わり

私は痩せている。
よく友達に言われたり、親からもっと太れと言われる。
だけど、私は一度もこの体型を維持しながら食事をしたことなんてない。
だって痩せているのは親からの遺伝だもの。
私はなにもしなくてもいい。

「食べすぎだぞ」

「なにか食べてないと落ち着かないの」

私がもりもりチャーハンを食べて、その後にお菓子をボリボリ食べていると征十郎が怒った。
うるさい。
食べても太らないんだからいいでしょう。
私はもう少し太った方がいいって、自分でも思うよ?

「あまり食べるとそれが普通になって戻れなくなるぞ」

「食費がかさむってことね」

「まあそれもあるね」

征十郎はそう返事をして私の手からお菓子を取り上げた。
なにか食べていないと落ち着かない。
手がお菓子を探し、口がお菓子を求める。
早く次をちょうだい、と。

「返して」

「ダメだ、体に悪い」

「悪くないよ、太ってないじゃん」

私がそう言うと征十郎はため息を吐いた。
呆れた目で私を見ている。
お菓子をちょうだいよ。

「そういう問題じゃないだろう」

「食べたい」

まだ征十郎の手にあるお菓子に向かって手をのばす。
けれど征十郎が私からお菓子を遠ざけるせいで届かない。

「名前、聞いているかい」

「聞いてない」

征十郎はまたため息を吐いた。
私こそため息を吐きたい。
私のお菓子を返してほしい。
征十郎はお菓子なんてきっと食べないんでしょう?

征十郎が私たちから遠い机にお菓子を移動させた。
征十郎は私の正面に座ると私の手首を掴んだ。

「なんであんな遠くに置いたの」

「名前が食べないようにね」

征十郎はなんでも自分の思う通りにやってしまうし、現にこのお菓子争奪戦は征十郎が正しい。
自分で食べすぎだと感じる前に食べてしまっているんだもの、感覚がもうわからなくなっている。
だから征十郎が止めてくれるのは喜ばしいことだけれど、やっぱり食べたい。
矛盾が生まれて欲に溺れてしまいそう。

「征十郎は正しいよ、わかってる
私のために言ってるのも」

そうやって真面目に返せば征十郎は可笑しそう笑う。

「でも止められないんだろう?」

「うん、ごめんね」

「なんとかして止めてあげるよ」

言い切る征十郎を見て、こういうときも正しさを求めるんだなあ、なんてぼうっと考えた。

掴まれた手首をぶんぶん動かすと征十郎は一度離して恋人繋ぎみたいに指を絡めた。
その手を見ていると征十郎に引っ張られて目線を合わせる。

「俺の指を噛んでもいいよ」

「…美味しくないし痛いじゃん」

「それで名前の気が紛れるならいくらでもやっていい」

征十郎が一瞬悲しそうな顔をした。
そんなに食べないでほしいのかな。
痩せている方が好きなのかな。
…征十郎はそんなこと思ってない。
きっと私のことが本当に心配なんでしょう?

「でも征十郎の指はバスケをやるでしょう?
指の状態変わっちゃうんじゃない?」

「名前が応援してくれるんだろう?」

「?うん」

質問を質問で返されて疑問に思いながら返事をした。
すると征十郎は自信に満ちた顔をして私をそのなんでも見透かす目で見るのだ。

「それなら勝てるさ」

なぜか「そっか」と納得して、私は掴まれていない方の手で征十郎が頬杖をついている手を握った。
征十郎は私の手のままに動く。
自分の唇に征十郎のきれいな指を押しあてて征十郎を見ると、征十郎は微笑んだ。

「お食べ」

征十郎の言う通りに人差し指を口に含んだ。
なんの躊躇も遠慮もなしに私は征十郎の指を受け入れる。
指の腹を舐めてみると少ししょっぱい。
爪を舐めるとつるつるしている。
征十郎に視線を向けると笑って私を観察している。
恥ずかしくなって笑って視線を誤魔化した。

「名前の口はただ寂しいんだろう?」

「…わかんない」

私が指を離し首をかしげると征十郎は笑った。
征十郎が立ち上がって私に影を落とし、顔が近づいたと思ったらキスをされる。

「それなら俺が寂しい唇を癒そうか」

「征十郎、」

「俺がいるのに寂しいなんて、悔しいだろう?」

あ、やっぱり勝ち負けと正しさを追求しているのか。
そう思ったけれど、私に対しても本気で相手をしてくれて心配してくれる征十郎がやっぱりどうしても好きだなって思った。

(150625)
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