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▼ 新しい君を連れ出してあげる

昔からそうだ。
変わらないのだ。
何度も何度も言われる。
わかっている。
小学生の頃から親に、中学生になると友達に。
素直なんて、どういうふうにしたらいいのだ。

「名前ってホント素直じゃないってか、ツンデレ?」

向日が机に身を乗り出し名前に言った。

「そんなことないっ」

名前が向日に強めに言うと向日がはは、と笑う。

「名前怒らせんといてや」

「侑士って名前に甘いよな」

クソクソ、ずるいぜ!と言いながら向日は体勢を戻した。

テスト期間の放課後
明日もテストがあるので生徒は早々に帰宅する。
図書館や自習室に残る生徒もいるが教室には残らない。
教室があるフロアはとても静かだ。
そんな静かな教室に、名前と向日、そして侑士は残っていた。

「岳人まだ帰らへんの?」

「ん?ああ、宍戸がさーちょっと待ってろって言うから待ってんだよ」

あいつおせーなあ、と向日がドアの方を見た。
そんな向日を見ながら名前が言う。

「宍戸くんと帰るの?」

「2人とよく寝てる慈郎っておるやろ?
3人は幼なじみなんやって」

「へえ」

侑士が話すのでそちらを見ると、明日のテストの勉強を始めている。
それにならい自分も教科書を取り出す。

パラパラと教科書をめくるとそれを見つめる向日。
明日どこ出んの?と聞いてきた。

「向日くんさ、テスト勉強してる?」

「?してねえぜ?」

きょとんとした顔で名前を見る向日はなんでそんなことを聞くのか不思議なようだ。

「え、大丈夫なの?」

「まあなんとかなる…!」

「うそ…」

「なあ」

「静かにしてくれへんか」

はあ、とため息を吐いて向日と名前を見る侑士。
隣に勉強してる人おるんやから、と付け加えて2人に釘を刺す。

「わりっ」

向日が謝ると、ええよ、と言い笑った。

「おーい、岳人!待たせたな」

「おせーよ!俺が侑士に怒られただろ!?」

「それ俺のせいなのか…?」

行こうぜ、と宍戸が向日に言い、向日が荷物を持つ。
向日が片手をあげて名前と侑士に手を振る。

「じゃーなっ!」

「ばいばーい!」

「ほなな」

よりいっそう静かになった教室に、侑士のシャーペンの音と、名前のページをめくる音が響いた。

「なあ、いつになったら返事くれるん?」

侑士がノートから目を離さずにそう問いかけた。

先日、名前は侑士に告白された。
あまりに突然言われたので、そのときは驚いてなにも言わずに走って逃げた。
だからこう2人になると気まずい。
向日がいてくれて助かっていたのに、侑士が早く帰れと何度も言うのもドキドキした。

名前は侑士が好きである。
だが小さい頃から言われるように、素直ではなかった。
悪い環境や人間関係でそうなったのか、と聞かれるとそうではない。
もともとなのだ。
感情をどうやって、そしてどの人にはどのくらい自分の本当の気持ちを伝えていいのか、わからない。
もし、本当のことを言って相手が傷ついたら?裏切られたら?
そう考えるとどうしても言えないのだった。

「俺のこと好きやろ?」

そんな名前をわかってか、子供だと思っているのか、侑士は優しかった。
いつも優しくフォローしてくれる。
「それは俺と2人の秘密やねん」とかなんとか言って、相手を軽くあしらってくれる。
だからだろうか、名前は侑士を誰よりも好きだった。

「別に?」

「ほんま素直やないなあ」

「っ…うるさい」

思わず手が出る。
くすくす笑う侑士に拳を振り上げると、パシッと侑士が名前の腕を掴んだ。
そんな侑士は頬杖をつき、流すような目線で名前を見る。

「悪い子やなあ」

咎めるように言う侑士を見るとなんでも見透かされているようで、怖かった。

私のすべてが見えている。

そんな感覚に陥った。

「私、どうすればいいのかわからないよ」

「言いたいこと言えばええねんて」

そう言い頭を撫でていた手が頬を撫で髪を指に絡めた。

ねえ、じゃあ今言ってもいいの。
素直に言っていいの。

侑士、と心の中で言う。
もう、目の動きで伝わればいいのに。
好きと、言っていいですか。

「ゆうし、」

「なん?」

切なくなり侑士の名前を呼ぶ。
すると侑士はすぐに答えた。
そしてなにかを感じ取ったのか名前を正面から優しく包み込む。

「す、き…」

「ああ、俺も好きやで」

よく言えたな、と侑士が名前を褒める。
優しくて低い声が鼓膜を震わせた。
まるで好きと言われるのをわかっていたかのようにするりと答えた。
余裕、その一言だ。

「俺が素直になるやり方教えたる」

せやから、名前の全部俺にくれへんか

耳元のその声は名前と侑士だけのものだった。

(150315)
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