小説 | ナノ

▼ Santa Teresa

「お前の死ぬところが見たい」

「(…はあ?なにこの人、気持ち悪い)」

呆れて物も言えない。
真は前から結構変だけど、最近かなり変。
最初は頭が良すぎて私にはわからないことばかり言うんだと思ってた。
だけど違う。
毎日「俺の目の前で死ね」とか「いつになったら死ぬ顔を見せるんだ」とか言ってさ…バカなの?本気にして死ぬやつがどこにいるの?
頭が良すぎてバカなの?
私がおかしくなりそうだよ。
例え真が「死ね」と言っても真のファンだって言う通り死ぬ人なんていないと思う。

「だから早く死ねよ」

「なんで」

こっちが不機嫌丸出しで言ってもそんなこと気にしていないようだった。
俺は別にいいけど、後悔するのはお前だぜ?みたいな顔をして私をじっと見つめる。
後悔するのは真の方でしょう。

「見たいから」

真が氷の入ったアイスコーヒーをぐびっと飲んだ。
涼しいこの部屋で汗をかくグラスを触る。
手が濡れた。

なんとか真を止められないのだろうか。
私が真に勝てることなんてなにもないけれど、この真を正さなければ2人ともおかしくなってしまうでしょう。

「子供じゃないんだからさ、そういうのやめなよ悪童サン」

「あ?」

「なに」

悪童と呼んだら不機嫌になった。
麻呂眉と麻呂眉の間のシワが増える。
真の特徴的な眉毛のせいでどんなに怒っていても笑ってしまう。
ふふふ、と笑うと頬をつねられた。

真は悪童と呼ばれるのを嫌う。
すべてが年不相応に大人びているのに二つ名だけが幼いから。
私も確かに大人びていると思うけれど、真はかなり子供なところもある。
私に無言で寄りかかってきたりキスをしてくるのは甘えたい、のかな?
そういうところが好き。

「いいから死ねよ」

「そんなこと言ってさ、私が傷つかないとでも思ってるの?
言われるたびに傷つくんだけど」

「その痛みと同じくらいで死ねるぜ?
ほら、ナイフでも縄でもなんでもやるよ」

遠回しにやめてと言ってもわざと気づかないフリをしてひどいこと言う真がよくわからくなった。
これが推理小説などでよく見るような愛故の殺人なんだろうか。
もう真にはなにを言っても通じないような気もした。

「…真って変だよ」

「はあ?お前だから見てえんだよ」

一瞬「えっ」と声が出た。
真がデレたからだ。
変なことを言われても真の優しい言葉を聞くとやっぱり嬉しくなるのだ。
しかしそこで「仕方ないなあ」なんて許すワケにはいかなかった。
こちらは命がかかっている。

「どこでデレてんの、嬉しくない」

「いいから、」

「っ…!?やめっ、」

はあ、と真はため息を吐く。

「一応ヒトのモンだから殺るんなら許可取ろうと思ってたのによ…」

まあいいよな、真はそう言って私の首に手をかける。
私の命をなんだと思ってるんだ。
簡単に終わりたくない。
たくさん真と過ごしたい。
もっと真の視界に入っていたいのに。
男の力に勝てるはずもなく首が折れそうなくらい強く締められる。

「大丈夫だ、気を失わせるだけだ」

「はっ、あ…バカ!?」

「…俺は手首から血を流すのがこの世で一番きれいだと思ってる」

この人、人の話を聞いていない。
手首から血を流すなんてただの自殺じゃないか。

私は真の髪を掴んだ。
焦りであのグラスのように汗をかいた私の手に真の髪が絡まって抜ける。
やめて、真。
そう言えないのは真の目がギラギラと光っていたからだ。
怖い。

「っしら、ない」

「大人しくなるまでやめねえぜ?」

大人しく なる なんて、もう私のことを物としか見てないじゃない。
ああ、この気持ちをなんて言えばいいの。
脳へ酸素が上手く行き渡らないせいか私はもうどうでもよくなった。
どうせ男の真には勝てないし逆らったらまた新しい方法でなにかしてくるんでしょう?

「もう、いい」

「なにがだ」

「まことの、いうとおりにする」

「…言うのが遅えよ」

息も絶え絶えになりながらなんとか伝わるように言ったのに真は舌打ちをして返した。
真は首から両手を離し私を抱きしめた。
息も苦しければ抱きしめられた体も苦しかった。

「なんで…」

「優しくするのか、ってか?
…お前が好きだからだよ」

だからなんだと言うの。
もう私のことなんて好きにすればいい。
私の意思を無視してなんでもしてしまえばいいのに。
真のことを理解出来なくて涙が出た。

「愛してる」

優しく囁いた真の表情は優しかったけれど、視界に入ったカッターの刃は優しくなかった。

(150615)
(かまきりのメスはオスを喰らうというけれどあなたは私を喰らったわね)
Santa Teresa :
カマキリ
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