小説 | ナノ

▼ Platonic Love

名前は震える手でスマートフォンを操作し「柳」の項目を探す。

「(押せっ、押しちゃえっ)」

電話のボタンを押せば一瞬の無音の後、呼び出し音が聞こえる。
どきどきと心臓が高鳴り体が熱い。
血液が流れているのを感じる。
なにしろ柳と電話するのは初めてなので緊張する。

機械音が途切れたと思うと、聞こえたのはあの声だった。

『もしもし、柳だ』

『も、もしもし
今時間大丈夫…?』

『構わない
どうした?』

優しい声が名前の耳を癒す。
柳の一言を聞くだけで心がふわりと柔らかく、温かくなる。
電話をして良かった、そう思わせてくれる。

『んーと特にないんだけど、今日話してなかったな、って』

『俺も電話をしようとしていたところだ』

『え、そうだったの?』

思ってもみなかった言葉が聞こえたので、名前は気の抜けた声を出す。

『ああ、スマートフォンを手にした瞬間電話がかかって来たから驚いた』

『驚いた柳くん見たいな』

『見なくていいぞ』

名前がにやにやして言うとそれを電話越しに感じ取ったのか強めに断られる。

『えええ』

名前が不満そうな声を出すと柳はフッと笑って話した。

『なにを話そうか』

『そうだね…あ、明日テストなの知ってる?』

当たり障りのない普通の会話。
それだけで楽しいのだ。

『もちろん知っている
勉強はしたか?』

『し、した』

名前がそう言うと耳元で柳が笑ったのがわかる。

『名前は嘘を吐くのが下手だな』

『うーん、実はちょっとわからないところが…』

しかし柳も疲れているであろうし、なにより電話でまで教えてもらうのには気が引けた。

『どこだ?』

柳はそんなことを露にも感じさせず名前に聞いた。
名前は柳の気遣いをありがたく受け取る。

『えっとね…』

スマートフォンを耳と肩で挟んで机の上をガサゴソと漁ると目当ての教科書を見つけ、ページを開く。

『ちょっと待ってね…』

『ゆっくりでいい』

柳の言葉が優しくてくすくすと笑ってしまう。
参謀と呼ばれているから少し怖いのかと思っていたのに、付き合ってからその想像はことごとく覆されてきた。

例えば朝、柳は朝練があり名前はないため会うことは出来ないが、朝練が終わった後必ず名前の席まで来て挨拶をする。
またデートのときは名前がなにか言う前に察してくれ、荷物を持ち名前の歩幅に合わせてくれる。
柳の優しいところをあげるとキリがなかった。
朝に柳からの挨拶があれば1日が楽しく過ごすことが出来るし、デートのときは柳の気遣いのおかげでどんなに歩いても、混んでいても辛くない。
柳はいつも名前を笑顔にしてくれる。

『なぜ笑っているんだ?』

『ふふふ、秘密』

だから名前はいつも笑顔なのだ。

『あ、このね、実験のところ』

『ああ、それなら』

そう言って柳はすらすらと解説をする。
まるでそこを質問するのがわかっていたかのように答えるので、柳は自分のことをなんでも知っているのだなと感心した。

『ありがとう
明日のテストで良い点が取れそうな気がする』

『気がするだと困るな』

『良い点取れそうだよ、柳くん!』

柳の言及に慌てて名前は言い直すと柳は笑った。

『それは良かった』

その後柳から部活の話を聞いたり、名前は教室であったことや家でしたことを話した。
いつの間にか時間は過ぎて、もう寝る時間が迫っていた。

『名前、眠くないのか?』

『うーん、眠いかも
柳くんは?』

名前がそう聞くと柳も『眠い』と答えた。

『寝ようか』

『そうだね』

少し寂しく思った。
眠らなければならないのは確かであるしまた明日会えるが、電話を切ることにより柳との繋がりが一度消える。
一時の別れが寂しいのだ。

『…』

『寂しいのか?』

『えっ…?』

柳に考えていたことをあてられ名前は驚いた。
驚いてなにも言えずにいると柳が続ける。

『寂しいんだろう?』

『う、うん』

なんでわかったの、そう言えば柳は笑った。

『毎日名前を見ているからな』

それを聴いて嬉しいのとともに納得する。
彼はデータマンだ。
それならば全員のことを観察しているのもわかる。

『データマンだから?』

『いや、名前の前では1人の男だ』

恥ずかしがりもせずに柳が言うので、名前は言葉に詰まった。

『あの、…恥ずかしい…』

『フッ…言うと思った』

くすくすと静かに笑う柳には勝てないのだろうと名前も笑った。

『いつもそばにいるさ』

『え…?』

『だから安心して寝ろ』

『柳くん…』

ありがとう、そう言えば柳はやっぱり笑うのだ。
名前は柳の言葉に、安心して意識を手放した。

『(おやすみ)』

(150607)
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