小説 | ナノ

▼ 守ってね

注意*微ホラー

ここはどこなのだろう。

薄暗く、窓からの月の明かりが頼りだ。

パキッ

足元から音がした。
どうやらなにか踏んだらしい。
見るとガラスだった。

窓や壁にはヒビが入っているものや割れているものもあり、古い廃墟ということはわかった。
いたるところにチリや壁や窓のかけらが落ちていた。

あてもなく歩いているとぞわり、と寒気が背中を通った

「っ!?」

得体の知れないナニカがゆっくりこちらに近づいてくる気配がした。

思わず前に走り出した。

名前が走った後ろをびちゃびちゃと濡れた音が続く

なにか追いかけてくるっ…!

恐怖で何回も足がもつれそうになる。
怖い

「はあっはあっ」

なんなのっ!?

先程から後ろでびちゃびちゃ言っている

怖くて後ろも振り向けないし、何回も転びそうになる

この建物は左右にドアが規則正しく並んでいる。
そして前にまっすぐ広がる廊下にいくつか曲がり角がある。
あそこから同じやつらが来たらどうしよう。

名前の頭に不安がよぎる。

「こっちやっ!!」

1番近くの角から声がした。
こちらに手をのばしている。

「謙也!?」

「いいからはよう!」

疲れて棒のようになった足に鞭を打ち走る。
もう少し…!

手をのばすと手を掴まれグイッと引っ張られた。
走った勢いのまま角に飛び込んだ
名前の手も、謙也の手も震えていた。

「大丈夫やったか…?」

「だ、だいじょうぶ…」

乱れた息を整えながら名前は答えた。
本当は大丈夫どころの話ではないのだが、名前は謙也に会えたことでもうどうでもよくなっていた。
謙也と名前は肩を並べ床に座った。

後ろでびちゃびちゃいっていたナニカはまっすぐ進んで行ったようだ。
名前は息を吐いた。

「変やねん。どこの部屋も鍵がかかってて開かへん」

謙也の言葉に名前は言葉を失った。

「え、じゃあ出口は…?」

「…そこも開かん」

2人の間に重い空気が流れる。
これからどうしたらいいのだ。

「まっまあ、白石とかが心配して探してくれてるやろ!」

重くなった空気を感じたのか、謙也が明るく言う。
テニス部もいるのか、と思っていると謙也が遠くから声が聞こえたらしい。
声のする方に、自慢の足で行ってみたが誰もいなかったが。

「そうだよね、私たちもなにか見つかるかもしれないし…歩いてみる?」

「そうやな!」

せやったら、と謙也が手を差し出した。

「?」

「怖ないように手繋ごうや」

少し照れくさいのか目を合わせずに謙也が言う。
名前が笑ってありがとう、と手を取った。

「俺が守るから大丈夫や」

「謙也…」

いつも財前や従兄弟の侑士にいじられヘタレと言われ、頼りないと思わされていた。

繋いだ手をぶらぶら揺らし先ほど入った角から出てナニカの行った方へ歩き出した。

「優しいね」

「…こんなところに女の子1人にさせるわけいかんやろ」

まあ、そうだね
と名前が笑った。

「助けてくれたのが謙也でよかった」

「な、名前…なんや」

ぶわわ、と効果音が聞こえるかのごとく謙也の顔が赤くなった。

「なんやねん急に」

「謙也に会ったら緊張がとれたみたい」

行こう、と繋いだ手を引っ張った。

「おいっ名前、走ったらあぶなっ、」

ベシャッ

「謙也!?」

謙也が転んだ。
急に引っ張られて足がもつれたようだ。

「ごごごごめん!」

「ええんや、名前に怪我がないならええねん」

にっこりと笑う謙也の優しさが、ここが危険な場所だということを忘れさせてくれた。

(150312)
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