小説 | ナノ

▼ 図らずも翻弄

最近蓮二が赤也ばっかり構う。
最近、というよりはかなり前、もしくは初めからなのだが、私とデートをするときも「この間赤也が…」とか言うので悔しい。
デートのときくらい赤也は忘れて私だけを見て欲しい。
もし話題をいろいろと考えた上で赤也のことを話してくれているのなら、会話なんていらない。
私は少し会話をするのが苦手であるし、なにより蓮二が隣にいてくれればいい、一緒に歩くだけでいい。
そう思うのはいけないのかな。

「名前」

「あ、蓮二」

蓮二のことを考えながら蓮二の背中を見ていると急に立ち上がりこちらまで歩いてきて話しかけられる。
教室では蓮二は私の2つ前に座っていて、本を読んでいたのに突然振り返ったのだ。
後ろに目でもあるのか、そう思うのは普段目を閉じているからだ。
実はまぶたの裏には瞳なんてなくて、髪に隠れて後頭部にあるのではないか。
いつも瞳が見えないせいでそんなことを思いつく。
本人に言ったらきっとため息を吐かれ、頭を叩かれそうだ。

「なに?」

「ずっと見ていただろう」

驚いて声も出なかった。
まさか本当に後頭部に目があるのではないか?

くだらないことは置いておいて、なんて返そうか考える。
んー、見ていたけど理由を聞かれると困る。
赤也に嫉妬していた、なんて軽く言えたならもうとっくに言っている。
乗り切れるかはわからないが、ここは見ていなかったことにしよう。

「見てないよ」

「そうか?名前の視線を感じたんだが…」

「んー気のせい、」

「柳センパーイ!」

…来た、天敵赤也…!
3年の教室になんの用よ!!

「ああ、赤也
…名前、申し訳ないが少し席を外す」

「…うん」

なんで赤也を優先するの。
赤也は時期部長だし立海の雪辱を果たすために今教えられることを教えることは蓮二にとって大切だし、望みだと思う。
でも今私と話してたよね?
まだ話終わってなかったよね?
蓮二の彼女は赤也じゃなくて私だよね?
…あ、彼氏、なのかな…。

「ホモなの…蓮二…」

「名前」

「えっ」

頭を抱えて小さく呟くと蓮二の声が降ってきた。
バッと顔をあげると蓮二がいつものように涼しい顔で私を見下ろしている。
赤也はもう終わったの?

「れ、蓮二…もう終わったの?」

「ああ、先に名前と話していたからな」

「ありがとう」

蓮二は優しい。
赤也じゃなくて私を優先してくれた。
なんだか優越感が私の心を支配したけれど、蓮二と赤也が仲良しすぎなければこんな気持ち普通ならないよね。
仲が良いのはいいことだけどなあ…青春って感じがするよね。

「頭を抱えていたが、なにか悩んでいるのか」

「悩み?んー…悩んでいるほどじゃないかな?」

なんと答えても蓮二は心配する。
きっと私がわがままなせいで赤也にもやもやするんだろう。
だったらこれは悩みじゃない。

「俺で良ければ聞こう」

「ううん、大丈夫」

蓮二が私を見つめるので意識してなにも悩んでいないように笑った。

「なにかあればいつでも聞く」

「ありがとう、蓮二」

「…では俺は席に戻る」

「うん」

そう言って蓮二が戻ると、ちょうどチャイムが鳴って授業が始まった。



名前が心を開かない。
いつも壁を感じる、遠慮をされている。
つい先日、彼氏に嫌われないよう努力する女性の話を読んだが、まさしくその通りの言動だ。
健気な彼女の心の内は実はかなりの恥ずかしがり屋で早とちりをする性格だ。
俺に見せていない名前の性格が本の彼女と同じかどうかは判断しかねるが、名前も俺に言えないことがありそうだ。
俺は黒板をノートに写しながら名前のことを考える。
名前はいつも俺を優先する。
気持ちは嬉しいが、そう思うのが名前だけのはずがないだろう。
少しは俺にわがままを言ってくれないか。
そのために赤也と頻繁に話していることに気づいていないのだろうか。
赤也…俺はどうしたらいいんだ。
俺よりも先に彼女がいる赤也に俺はよく相談をする。
こういったことには赤也の方が長けている。
的確とは言えないものの、俺の思いつかないことを教えてくれるのがありがたい。
『そういうときは嫉妬させるのがいいんスよ!』
そう言われ嫉妬させるため、赤也と仲良くするフリをして名前の様子を2人で観察するのが日課になった。
『名前センパイなかなかしぶといっスね…まだ文句言って来ないんスか?』
『ああ、それについては無反応だが、見られることが多くなった』
『効果アリっスか!?』
『どうだろうな』
毎日こんな会話しかしていない。
先ほども名前と話している途中に赤也が割ってくるというシチュエーションが良いと言われ、赤也の言う通りにしたが効果はなさそうだ。

どうしたものか。
なにか手はないか、そう考え直すとチャイムが鳴った。
まさか名前のことで授業が終わるとは…。

「(…重症だな)」

ここは俺が素直に言うべきだろうか。
気持ち悪いと思われないだろうか。
恋愛に疎い俺にはすべてが不安で仕方がない。

「(…嫌われても構わない
これほど嫉妬させようとしても失敗するのは俺に飽きたのだろう)」

俺は意を決して立ち上がり後ろの名前に近づいた。

「名前」

「うん?なに?」

「…話が、ある」

上手く呼吸が出来ない、名前の表情を読み取れない、手足が震えている。
俺は気づかれないように深呼吸をした。



「…話が、ある」

これは「赤也と付き合うことになった」と言われるのね…別れ話…。

「わかった…」

「ついてきてくれるか」

私は言われた通り蓮二について行く。
そこにはきっと赤也もいるんでしょう?
考えるとため息を吐きそうになり慌ててそれを飲む。

蓮二が人気の少ない廊下で止まる。
?赤也がいない。

「俺に、飽きたのだろう?」

「…え?なんの、はなし」

「…気を遣うな」

振り向いたと思ったら少し眉を寄せて蓮二が言う。
そう言われても飽きてなんていないのでなんと言ったらいいのかわからない。
そんな態度とったかな…?

「えっと飽きたかどうか聞いてるなら飽きてないよ」

「それならなぜ、」

「?」

蓮二は言いかけると一瞬眉をひそめすぐに戻した。
ふう、と息を吐く音が聞こえたので蓮二の言葉を待つ。

「名前を赤也と見ていた」

「?どういう、」

「名前が赤也に嫉妬して俺にわがままを言うと思った」

時が止まったのだろうか。
それとも数時間後に世界が終わるとかそういう状況なのだろうか。
蓮二の口からそんな言葉を聞くことができるとは思わなかった。
視点が定まらない、どんな顔をして蓮二を見ればいいのかわからないしそもそもまともに顔を見ることが出来ないくらい私の顔が熱い。

「れんじ…その…」

両手で顔を覆って気づかれないように指の間からちらりと蓮二を見ると、蓮二の顔も見たことがないほどに赤かった。
こっそり見たのに目が合って、蓮二も片手で自分の顔を隠した。

「見たか」

「み、見た」

「そこは嘘でも見てないと言ってほしい」

「ごめ、だって…」

どきどきする。
蓮二が私のために頑張っていたことが嬉しい。

「あの…嫉妬、してた」

「それなら名前はずいぶん隠すのが上手いな」

「…ホモかと思ったんだもん…」

「…心外だな」

お互い顔を隠しながら話した。
この上なく恥ずかしい。
すると再び蓮二からふう、と息が聞こえたので私も少し大きめに息をする。

突然グイッと両手首を蓮二の方へ引っ張られ、思わず強く目を閉じる。
チュ、と音がして唇が触れた。
蓮二の片手が私の腰に回る。
必死にしがみつけば腰にある手が私を強く抱き寄せる。

「っれ、んじ」

唇を離すとまだ少し赤い顔の蓮二と目が合った。

「互いに遠慮するのはやめないか」

「う、ん」

私が頷くと蓮二はふわっと笑った。

「好きだ」

「蓮二…私も好き、」

再び唇を合わせると2人で自然と笑った。

(150604)
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