小説 | ナノ

▼ ほえる

「交渉決裂?」

瀬戸が開けっ放しになったドアを見つめ言う。
すると急にバラバラとあのガトリングガンの音が聞こえた。
全員がドアの向こうに広がる森を見ると、先ほどのゾンビが走っている。
その足取りはふらふらと目的もなく、ただガトリングガンを撃たせるために走っているように見えた。
巨体はジャージを見て自分たちと判断したのか、銃を止める気配はない。

まもなく音は止み、弾切れになった。
ガチャガチャと銃をいじるが当然替えの弾はないので巨体はガトリングガンを地面に捨てた。

「おい、準備しろ」

影から見ていた花宮は全員に指示する。
それぞればらばらに隠れ、巨体のゾンビ化を待った。

名前もどこかに隠れようと歩くと花宮に腕を掴まれた。
振り返ると花宮が名前を引っ張り自分の後ろに移動させた。

「お前はここにいろ」

「…わかっ、た」

素直に頷くと花宮は笑った。
安心したような、優しい笑顔だった。
名前は花宮の笑顔に思わず顔に熱が集中するのを感じた。

ガアアアアッ

なにかが吼えた。
近くに吼えるようなモノなんて、1人しか心当たりがない。
筋肉増幅のままゾンビ化するというのは、どんな具合になるのだろうか。
花宮は笑った。
きっと酷くグロテスクなのだろう。
ボス戦にはちょうどいいではないか。
銃を構え花宮は走り出した。

花宮を見つけた巨体のゾンビも走り出した。
筋肉増幅のおかげで体力も銃への耐性も高いだろう。
先ほど囮になったゾンビは自我があったために走ることが出来たのだ。

ゾンビと花宮が接触する前に、4人はあるだけの弾をすべて撃たなければならなかった。
4人の銃撃で倒れるならそれも良し、4人の銃撃と花宮の銃撃で倒れるならそれもまた良しとしていた。

4人は影から攻撃した。
眉間にしわを寄せ、1発1発弾を銃内部にセットして撃つ山崎。
笑いながら連射を続け、既に2つ目の銃を構える原。
低めの木の枝に銃を固定し落ち着いて連射を続ける古橋。
木の上からなにか計算しながら連射する瀬戸。

4人の攻撃でなかなか前に進めないゾンビはもどかしいのか、再び吼えた。
その間に、自分に銃があたらない位置まで来た花宮はゾンビの真正面から頭をめがけ撃った。
何度も何度も。
2丁の銃の弾がなくなるまで。

ゾンビは倒れなかった。

「花宮!」

原が逃げろ、と叫んだ。

花宮はとっさに右へ逃げた。
普通に走ったのでは、筋肉の塊のゾンビにはすぐ追いつかれる。
花宮は出来るだけ木々が生い茂る方へ進んだ。

4人の銃は既に花宮が撃ち始めたときから弾切れだった。
追いかけられる花宮になにか出来ないかと考えを巡らせる。

パァンッ
バンッバンッ

花宮や山崎と同じ銃の音がした。
銃を持つ者なんていなかった。
花宮は無闇に動いて流れ弾があたることを恐れ、その場で止まる。
その銃の音が一旦消えると、ゾンビは地面に膝をついた。
ザクザクと葉を踏む音がして、花宮は後ろを振り返った。

銃を両手で構える名前がいた。
肩ではあはあと息をし、瞳孔が開いて、ゾンビしか見えていないようだった。

「名前…」

花宮が呟くと、名前は膝をついたゾンビの頭を撃った。
ゾンビは最後に今までで一番大きく吼えると、朽ちた。

「は、なみや、くん…」

名前ははっと我に帰ったのか震えだした。
花宮は名前に駆け寄る。
地面に崩れる名前がとてもちっぽけに見えた。

「…しっかりしろ」

「はなみやくんっ…」

名前は眉を八の字にして目の前の花宮を見上げた。
花宮が名前を受け止め抱きしめると、名前は泣き出した。

「こわかっ、た」

「悪かった」

花宮が腕に力を入れて名前をさらに強く抱きしめた。
名前が気を張り続け疲れたのか、花宮の肩に顔をうずめた。

「もう大丈夫だ」

そう言う花宮も疲れたのか名前と同じように顔をうずめる。

しばらくこうしていても良いか。
本当は早く帰りたい。
だが今はもう少し、

「まーた2人イチャついてんじゃん
ザキマジムカつく」

「いやなんで俺!?」

「少し静かにしろ
疲れているんだろう」

「まあ俺たちも疲れたよね」

花宮が逃げた後を追っていた4人は2人のようすを木の影から見ていた。

「…帰るぞ
立てるか?」

しばらくすると花宮が名前に手をのばした。
名前が花宮の手を取る。
手に繋ぎながら歩くと、足元からサクサクと葉の崩れる音がした。
少し前を見ると、4人が木に寄りかかり2人を待っていた。
4人が笑ってこちらを見る。
その笑顔を見て花宮と名前もようやく笑った。

「帰るぞ」

花宮が言うと4人は後ろについて来た。
いつもこうだ。
6人で歩いて行く。

「ねえ、『六つの花』ってどういう意味だったのかな?」

名前が花宮に聞くと、花宮は宙を見て答えた。

「あいつにも大切な仲間がいたんだろ」

そう言うと原が突っかかる。

「あいつに"も"?まみむめものもですか〜?」

「原の方がウゼェよな」

山崎がつっこむと古橋と瀬戸が笑った。

「バカだな」

「ああ」

古橋が毒づくと瀬戸も頷いた。

「おい、うるせえぞ
名前、早く懐中電灯点けろ
暗え」

「うん」

ポケットから懐中電灯を取り出し点けると、ボウっとあたりを照らした。

「ねえ、明日学校も部活もお休みだからみんなで遊びに行こうよ!」

「ふはっ、ガキくせえな」

そう言いながら手は離さないのだった。

(150403)
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