小説 | ナノ

▼ はなす

遠くを見つめる花宮が呟く。

「あのゾンビを使う」

「?ゾンビ…?」

ゾンビなら先ほどから燃えているではないか、と名前が首をかしげた。

「カプセルの中にいたゾンビか」

古橋がそうか、と言ってなにかひらめいたようだ。

「カプセル開けたら生きてるとかないよね?」

「どうだろうな」

原が冗談めいた声で言うので、古橋は首を振る。

「で?あのゾンビをどう使うんだ?
盾にでもすんのか?」

「今日のザキ冴えてるね
この森で野生の勘でも磨かれた?」

山崎の予想がよく当たるので、瀬戸は意外そうに笑った。
すると古橋が納得のいった顔で言う。

「ジャージを着せて俺たちの誰かに見立てるのか」

「ああ」

「ゾンビデカかったから瀬戸のジャージじゃん
おつかれ〜」

花宮が頷くと原が瀬戸を茶化すので瀬戸が苦笑いする。

「まあそれでここから出られるならいいよ」

「だな」

山崎が同意すると瀬戸はジャージの胸あたりを名残惜しそうに撫でた。
全員が立ち上がって周りを確認する。

「…誰もいないね」

名前の言葉が合図となり全員はゾンビがいた小屋へ走った。
先ほどまで逃げながら走ったため、ここがどこだかよくわからない。
しかし、いまだ燃える建物とその焦げ臭いにおいに辛うじて今どこを走っているのかがわかった。

「原がいたところならこの向きだと右にあるはずだよな?」

「ああ、小屋は3つのうちの真ん中だ」

まあきちんと小屋が並んでるわけじゃねえけどな、と山崎の質問に答えながら花宮は先頭を走る。

「あ、俺のいたとこあそこ」

「あいつは来ないようだな」

原が一つの小屋を指差したので古橋が周りを確認すると、周りには誰もいなかった。

「このまま帰ったら脱出直前で殺られるパターンじゃね?」

「だろうな
どうせ入り口の近くにいるんだろ」

山崎が予想を言うと、花宮は答えたが内心『フラグを建てるな』と思った。
山崎にはよく考えもせずにべらべら話し、自滅するといったことがよくあるのを花宮は知っていた。

目的の小屋に無事着いたので原がドアを開けると、室内のようすはまったく変わっていなかった。
ただただ寒い。

「あいつはこのことを知らないのかもね」

瀬戸がジャージを脱ぎ、カプセルをコンコンと叩いた。

「やっぱり寒いね、ここ」

名前の口から白い息が出る。
自分の体を抱きしめ、寒さに耐えた。

「それで開け方だが」

古橋はどうやって開ける気だ、というような目で花宮を見た。
花宮はそんな古橋をちらりと見てカプセルの前に立った。
古橋が入っていたカプセルと同じ形をして、硬いガラスで出来ている。
工具セットはあの建物に置いたままで、このカプセルを開けるものはなにもなかった。

「おい、起きてんだろ?」

「?花宮くん、どういうこと?」

花宮がカプセルの中のゾンビに話しかけるので、名前は聞いた。
ゾンビは凍っているし、きっと長い間そのままなのだろう。
死んでいるのではないか、そんな考えが頭を支配して離れない。

「こいつは仮死状態だ
ゾンビは頭を撃たないと死なないだろ?だったらまだ生きてる」

花宮がそう説明するとゾンビはバンッと大きな音を立て目の前のガラスに手をついた。
手をつくと凍ったゾンビの手が朽ちる。
体が長い間凍っていたせいで体まで氷になってしまったようだった。

「健太郎、ジャージを渡せ」

花宮の言う通りに瀬戸がジャージをゾンビの目の前に見せる。
ゾンビはガラスに頭突きをすると、カプセルのガラスが割れた。

「頭は強いんだね〜」

「弱点だからだろう」

後ろの方で原と古橋が話すのが聞こえた。
ゾンビがのろのろとカプセルから出ると瀬戸が持つジャージをひったくって着た。
どうやらゾンビは話せないようだ。
静かに花宮の言葉を待っていた。

「お前、自我があるよな?
お前だけ実験が成功したか失敗したか知らねえが…だからここにずっといたんだろ?」

ゾンビは黙ったままだった。

「あの人から逃げてきたの…?」

名前が花宮のジャージを掴みながらおそるおそる聞いた。
ゾンビは答えることはなかったが名前を視界に入れる。

「俺たちの囮になれ」

「ゾンビ相手にも容赦ねえな…」

山崎がぽつりと呟いた。
それを花宮は受け流しゾンビに話し続ける。
ゾンビは花宮をジッと観察していた。

「お前は弾切れさせるように動けばいい
あいつはガトリングガンが弾切れしたとき自分にゾンビになる薬を射つはずだ
ゾンビになったら俺たちが殺す
…手伝え」

花宮がゾンビに力強い視線を送ると、了解したのか、無視したのか、花宮や名前たちを横切り外に出た。

「交渉決裂?」

あのゾンビがいないとダメなのだ。
作戦は成功しないし、山崎の言う通りになってしまう可能性が高いのだ。

花宮は静かに願った。

(150403)
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