小説 | ナノ

▼ あやす

走って走って、ガトリングガンの音が遠くから聞こえる。
花宮が走るのを止めて少し歩くと、ついに立ち止まった。
花宮は大きな木の根元に座り込み、繋いでいた手を引っ張って隣に名前を座らせた。
座ると大きく息を吐いた。
乱れた息を整え、花宮を見ると上を向いたまま目を閉じていた。

「私たちだけ逃げていいの?」

「弾切れまで待つ
あいつらは弾を撃たせるために攻撃してんだよ」

ちょこまかと敵が動けば、銃を持つ者はどうしても撃ちたくなるものだ。
それを逆手にとり、少しでもガトリングガンの弾数を減らす。
そうしていると、いくら連射可能とはいえ、ずっと撃っていれば銃身は赤く熱を持ち撃てなくなる。
それを待つのだ。

「みんな大丈夫かな…」

「ああ、誰だって死ぬのは嫌だろ
死ぬ前に逃げろとは言ってある」

死ぬ、なんてことが日常で身近にあるだろうか?
今までゾンビはゆっくりとした速度でしか襲って来なかった。
ゾンビが歩いて来る間に銃で倒せたのだ。
今は?
相手は1人だ。
だが、銃を持っている。
よりによって1分間に約100発も撃つガトリングガン。
ガトリングガンを持つためだと思わせる強靭な肉体。
…殺られる。
銃の雨に殺られる。
急に死を身近に感じた名前の両手がカタカタと震えた。
震えと同時に両手で大事に包み込んだ銃も震える。

ギュ

花宮が名前を抱きしめた。
強く強く。
震えを止まらせるように自分の肩に名前の頭を押しつけ撫でる。

「は、なみやく…」

「なに不安がってんだよ
俺がお前を死なせるかよ」

「っでも、みんながいなくなったらいやだよ…!」

名前が花宮の胸あたりのジャージを掴んで顔をあげると、花宮は真剣な顔で名前を見た。
どこか憂いを帯びていて、疲れも顔に出ている。
なのに、それなのに頼もしく、男らしく、色っぽくて、名前はなにも言えず花宮を見つめた。
涙が出そうになる。
こんなに必死に守ってくれる人がいることに。

わたしはあなたを守りたいよ

「はいはい、非常事態でイチャつかないでよね〜」

ガサッと葉の音がして、花宮と名前が音の方を見る。
へろへろの4人がそれぞれの肩に銃を担いで笑っていた。
腕まくりをしたジャージや顔は土や砂で薄汚れ、ところどころ破けている。
4人が現れたことで安心した名前の目からぼろぼろと涙がこぼれた。

「ぶじ、だった、の…?」

「勝手に殺さないでくれ」

名前の言葉に古橋が苦笑いをすると大丈夫だ、と言った。

「泣かすなよバァカ」

「名前、ごめんな」

花宮が眉間にしわを寄せ4人を見上げると、瀬戸が名前の頭を大きな手で撫でた。
温かな手で撫でられ、名前はこくこくと頷いた。

「で?あの巨体はどうなった?」

「銃が重くて走れねえみたいだぜ
あと白衣の下に弾背負ってた」

山崎が報告すると、花宮は顎に手をあて考える。

「音は合計で1分から多く見積もって1分30秒くらいだな
てことは5000発以上…背負ってる弾数にもよるな」

「どうすんの花宮」

原が地面にベタッと寝っ転がった。
もう疲れたらしい。

「俺たちの弾数と巨体の弾数の兼ね合いだな
古橋と原は無駄撃ちしてねえだろうな?」

花宮が古橋と原を見て聞いた。
と言うのも、この2人が持つ銃は30発程度しか弾数がないのだ。

「俺とザキは全然撃ってないよ
走って撃たせてただけ」

「…古橋は」

険しい顔で花宮が古橋を向くと銃を持ち上げて言った。

「弾切れしたが逃げる間に銃があったから取ってきた
これはドイツ人のものらしい」

どうやら銃はすべてドイツ人の所有するものらしかった。
確かに小屋や森にしか銃がないことから簡単に思いつくが、古橋が見つけた銃にはドイツ語でサインがしてあったのだ。

「俺さ、ドイツ人がなんかあったときのためにいろんなとこに銃を置いたんだと思うんだよね
例えば逃げてる途中で銃ゲットして復活、みたいな」

原の言葉に花宮は頷いた。
きっとそうなのだろう。

「で、巨体はどう倒すんだ?」

山崎がそう話を切り出すので全員考え出す。
口を開いたのは古橋だ。

「あの薬品の数とカプセルなどの設備からして理科系に通じているのは間違いないだろう
となると計算も人並み以上だ」

「…ドイツ人を制圧したってことはドイツ語もある程度出来る
頭は確実にいいね
それに加えて実験のためなら手段を選ばない外道さ…花宮はどう思う?」

古橋が見解を言うと瀬戸も参加する。
今はどこからもガトリングガンの音は聞こえず、出来るだけ小さな声で話し合う。
巨体がどこにいるのかわからない分、時折周りを警戒しながら休んだ。

「俺に言うってことは喧嘩売ってるよな?」

優等生の笑顔で口元をヒクつかせる花宮はとても怖い。
花宮は表情を戻して話した。

「…案外木偶の坊かもな」

「は?」

花宮の言葉に思わず山崎が声を上げた。

今、相手の強いところをあげて対策を考えていただろう。

急に適当なことを言うな、と山崎はつっこみたくなったが、ふとそうかと思った。

「銃が重くて小回りきかねえし動けねえってことか?」

「正解だ」

花宮がにやりと山崎に笑った。
どうやら山崎の考えは当たっていたらしい。
名前が山崎の言葉を受け、考えを言う。

「勉強ばっかりで運動して来なかったってこと?
それとも筋肉増幅させただけで体と脳にズレが生じてるの?」

「名前も正解だ
まあ答えは両方だけどな」

ふはっ、と笑う花宮はどこか遠くを見つめている。
なにか思いついたのか、もう考える仕草はしなかった。

(150331)
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