小説 | ナノ

▼ にげる

「とりあえず古橋が回復したら帰るか?」

山崎が提案すると花宮は頷いた。

「ああ、後味は悪いがな」

花宮が古橋をちらりと見ると目を開けていた。
まっすぐこちらを見て、話を聞いている。
少しは回復出来たようだ。

「待って、なんか…焦げ臭い」

名前が花宮のジャージを掴み花宮を止めると、くんくんと空気の臭いを嗅ぐ。
原が窓の近くに寄りかかって外を見ると目を疑った。

「ねえ…外さ、真っ赤なんだけど」

原が親指で窓の外を指差した。
全員が窓に集まり見ると真っ赤以外の表現の仕方がなかった。

「誰が火つけたの…これじゃ帰れない」

瀬戸がはあ、とため息を吐いて窓を軽く殴った。

「いや…森が燃えてたらさすがに森の外の人間が気づくだろ
それに下にゾンビがたくさんいる」

嫌な予感が全員の頭をよぎった。
ゾンビがたくさんいることに気持ち悪くなったが、その 嫌な予感 も気分を悪くさせた。

「…ここが燃えてる」

予感が当たった。
喜ぶことなんて出来るわけがない。

「俺たちをここで足止めさせて始末するために古橋を攫ったのか」

瀬戸が花宮の言葉に付け加える。
すると古橋が立ち上がり窓に近づいた。

「火元は下だ
上に逃げるのが普通だが…」

「階段はここで終わってるしこれ以上は上には行けないね…」

古橋と名前が考えを言うと空気が重くなった。
重い雰囲気というのもあるが、だんだんと煙が上がって来ているのだろう。
煙が目にしみて少し視界がボヤける。

ふと原が反対の壁にある窓を見る。
すると声をあげた。

「こっちあんま火来てないし、近くに木があるから木に突っ込む?」

そんな乱暴な脱出を花宮が許すわけがなかったが、それ以外の方法が思いつかなかった。
花宮は原がいる方の窓を全開にして外を確認すると躊躇なく飛び降りた。

「ちょ、迷いないね花宮」

「原が言い出したんだろう」

古橋がつっこむと原は口元を緩めて花宮に続いて、飛んだ。
そんな原にため息を吐いて古橋は名前を呼ぶ。
名前が呼ばれるままに窓の前に行くと「花宮めがけて飛ぶんだ」と言われ、背中を押される。
名前は押されるがままに飛び降りた。

「うわああ」

こんなに高いところから木に突っ込むなんてこと体験したこともなく、思わずギュッと目を閉じる。

「っ名前!」

花宮の声がして、名前はうっすらと目を開ける。
花宮が眉間にしわを寄せ真剣な顔で両手を広げて名前を待っている。

「花宮くん!」

名前が花宮に応えるように両手を広げた。
ガサガサッ
2人でもつれるように木々から落ちて、地面に落ちた。

「っぐ、おい名前…」

「は、はなみやくん…」

名前が花宮を押し倒す体勢で着地したので背中が痛かったのだろう。
花宮の両腕は名前をキツく抱きしめていた。
花宮が少し首を上げて名前を見た。

「…怪我は」

「ない、です」

「はあ…」

花宮は地面にだらりと脱力する。
だが名前を抱きしめる腕はまったく緩むことはなかった。

「大丈夫だったか?」

古橋と瀬戸が2人のところに来て聞いた。
山崎と原はまだ木の上にいるようで、上の方でなにやらうるさかった。

「ああ、大丈夫だ」

「火が回るのも時間の問題だね
怪我がないなら早くこの森から出よう」

瀬戸がそう言いながら名前に手を差し出した。
ありがとう、と瀬戸の手をとり立ち上がると、ジャージをパンパンと叩いて土ほこりを取った。

「悪いな」

瀬戸が花宮にも手を差し出したので素直に手をとった。

「おいなにしてる
早く降りて来い」

花宮が上を見上げて原と山崎に声をかける。
声が聞こえた2人は下を見下ろし花宮に言った。

「なんかザキが変なこと言うんだけど〜」

「いや、マジで見たんだって!」

原が山崎を指差し花宮に言うので花宮は疑問に思った。

「なんだよ?」

「人がいた!」

「ゾンビじゃなくて?」

瀬戸が山崎を見上げて聞いた。
あの2人はまだ降りて来ない。

「顔色は良かったぜ!」

「…白衣を着た男か?」

「ああ」

山崎が木から降りて「なんで知ってんの?」と古橋に聞くので原も木から降りた。

「いや…俺を閉じ込めた奴がそうだった」

「?じゃあどこに隠れてたんだろ?
山崎くんになにかして来たの?」

名前が首をかしげて山崎に聞く。

「こっち見てるだけだったぜ
飛び降りた後も見てきたからしばらく俺も見てたら奥に消えた」

「なんだろうな」

花宮は山崎の言葉から意味をよく考えたが特に思いつかなかった。
そもそもあの場に残れば火にのみ込まれるだろう。
現に建物は火の渦と化している。

「とりあえず今は森から出よう」

いつの間にか古橋が少し遠くを歩いていた。
6人は建物の向こう側を目指し足を進めた。

(150329)
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