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▼ d e e p ?

残念だ、と柳は1人心の中で呟いた。
否、もしかしたら口に出していたかもしれない。

こうなったのも名前のせいだ。
柳は思った。

いつものように柳は廊下を歩いていた。
休み時間だからだろう。
廊下も教室も賑やかだ。暖かな空気に包まれている。

窓の外を見ていたがふと前方に視線を移す。

階段近くの廊下に、見知った顔を見つけた。
幸村だ。
話しかけようとそちらに足を進めると、誰かと話しているようだった。

誰と話しているんだ?
そう思い相手が見える位置に少し移動する。

幸村と楽しそうに話している名前を見つけた。

それを見た瞬間、心臓がぐつぐつと煮えたぎるような感覚に襲われた。

「(なんだ、この気持ちは)」

なぜ精市にそんな笑顔を見せる。
なぜそんなにも楽しそうなんだ。
俺といるときはあまり笑わないのに。
今まで緊張のせいだと思っていたが違ったのか。

いつもの柳なら簡単に処理出来ることも、感情的になっていた。

俺にもこんな気持ちがあったのか
柳は驚くと同時に自分に少し感動したのだった。

ぐるぐる働かない頭で考えているとドンッと誰かにぶつかった。

「っすまない」

そう言いぶつかった本人を見ると幸村だった。

「あれ、どうしたんだい?
ぼーっとしていたようだけど」

幸村はにっこり笑って、なにかあったら言ってくれよ、と柳の肩をポンと叩き去って行く。

はあ、と小さなため息が漏れた。

放課後
帰りのあいさつが終わり教室は人が帰る生徒や話に花を咲かせる生徒で賑わっていた。
休み時間より賑やかだが、少し寂しいのは人が少ないせいだろうか。

柳は部活へ行くために荷物を整理していた。
もやもやする気持ちを早く走り断ち切りたい。
…青学の不二みたいだな、と笑みがこぼれた。

ガララッ

後ろのドアが開いた。
赤也でも来たのだろうか。
視線をドアに移すと柳の気持ちをかき乱す張本人がいた。

「柳くん、途中まで一緒に行かない?」

名字は帰宅部だ。
放課後は部活がある柳とは別行動になるので、教室から校庭まで一緒に歩いている。
柳が待たせるのは申し訳ないと言ったからだ。

いつの間にか教室には柳と名前だけになっていた。
遠くで生徒の談笑の声が聞こえた。
2人だけの状況で柳はもう我慢が出来なくなっていた。

「精市となにを話していた」

名前はいきなりのことで答えられなかった。

「え?」

「白昼堂々と浮気か?」

今度は驚きで答えられなかった。
柳も嫉妬するのか、と。

それを肯定と受け取った柳ははあ、とまたため息を吐いた。

ちらりと名前を見る。

それに怯えじりじり後ずさりする名前に柳も少しずつ迫る。

「お仕置き、か?」

「!?ご、ごめっ」

どん、と名前が言い終わる前に柳は左腕を窓についた。世間にならって言うなら壁ドンである。いや、窓ドンと言った方が正しいか。

普段閉じられている目を薄く開け、どこか憂いを帯びた視線を名前に送る。
え、何?とってもディープな雰囲気を醸し出してるんだけど
私は壁ドンより蝉ドンの方が興味あります!
内心パニックになり変なことを考えているのを察したのだろうか、柳は空いていた右手で名前の頬に優しく触れた。

「!?」

ディープな雰囲気からの頬触り…これはキスか、キスなのか…!
もう一度言うが名前はパニックである。脳内で実況してしまっている。

頬を包むだけでは有り余る柳の右手は耳を掠め名前をびくりと動かした。
美しい和風な顔がゆっくり近づいてきたのでとっさに目を閉じた。
そのまま唇に柔らかな衝撃が…、?

ふ、と目の前で声が漏れた。

「嘘だよ、騙されやすいな名前は」

「少しいたずらしてみたかっただけだ」

そう言いふふふと名前の目の前で笑って見せた。

「(もうその笑顔だけでいっぱいいっぱいです)」

どうやらキスはまだお預けのようだ。
柳が呟いたのはだれも知らない。

(150308)
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