皆様こんにちは。帝光中バスケ部所属の黒子テツヤです。やっと半分練習メニューが終わり、僕は今部室の椅子に横になっているところです。え?なんで部室で寝てるのか、ですか?全ては青峰君のせいです僕は悪くない。あのガングロが僕の背が小さいだのなんだのといじり倒してきたので1発かましてやろうとイグナイトをお見舞したらあの野郎避けやがりまして、その後ろにいた赤司君の後頭部に直撃しまして。青峰君と僕は仲良く練習メニュー5倍の刑に処されました。あの時の赤司君の笑顔が今も頭の中で延々ループされていて恐怖でどうにかなりそうです。あんなに殺気立った笑顔を初めて見ました。アレハニンゲンジャナイ。そんな訳で案の定体力の限界で死にそうになって現在椅子の上でバテているということです。
さて、此処からが本題なのですが、何故こんな実況じみた独り言を言っているのかと言えばですね。僕しか居なかった部室に入ってきた赤司君と黄瀬君の様子がちょっと、いやかなりおかしいのです。何なんでしょうか。このピンク色の空気は。もしかして僕もいる事に気がついていないのでしょうか?そんな馬鹿な。隅っこに居る時ならまだしも、部室のど真ん中にある椅子の上で顔にタオルを乗せて寝ているいつもより存在感は絶対にある僕に気づかないだと?

「ちょ、ちょっと赤司っち、今は部活中っスよ」

「そんな事俺には関係ないよ」

そう言いながら黄瀬君の頬をいやらしい手つきで撫でる赤司君と、少し肩を揺らしながら「んっ」と何やら悩ましい声をあげる黄瀬君。
おいこら主将。関係大有でしょう。何をおっ始めようとしているんですか。まさか本気で僕に気づいていないというのか。
タオルの隙間から凝視する僕はそっちのけで盛り上がる2人。これはやばい。やばいぞ。今すぐに止めなければ野郎2人のラブシーンを見せられることになってしまう。何が悲しくて友人の、しかも男同士のイチャコラを見なければいけないのか。

「だ、誰か来ちゃうかも」

「暫く大丈夫だろう。外周を命じてきたばかりだしね」

職権乱用してますね。紛れもなく職権乱用です。誰かの助けを期待していた僕は小さく舌打ちする。神なんていないんだ。多分今の僕の顔は親の仇を見るような表情な事だろう。表情筋をここまでフル活用したのは人生で初めてじゃないだろうか。

「せめて部活中はこういうのやめてほしいんスけど…」

「こういうの?」

「アピールっていうか…」

「黄瀬が一言、俺を選ぶと言えばいい。そうすれば俺も安心してゆっくり黄瀬のペースでお前を愛せるんだけどね」

「ぅぅ…」

スリスリと手の甲で黄瀬君の頬を撫でていた手をゆっくり唇に移動させると、その形を確かめるように下唇を指でなぞる。それを止めたいのだろう黄瀬君は林檎みたいに真っ赤な顔で緩く赤司君の手を掴む。力の入っていないその手は簡単に外れそうだ。視界の端で見ていた赤司君はふっと優しく微笑むと、その手にスルリと自分の手を絡めた。わぁ、恋人繋ぎと言うやつですね。流石赤司君がやると様になってます。なんて現実逃避し始めた僕。死んだ魚のような目なのは鏡を見なくても分かります。自分の顔ですしね。右手を恋人繋ぎのまま黄瀬君をロッカーに押し付け、左手は細い腰にゆるりと回される。ビクリと肩を震わせた黄瀬君は流石に焦ったのか赤司君の腕の中から離れようとわたわたと動きだす。それを許すはずのない赤司君はニコりと妖艶に微笑むと黄瀬君の足と足の間に自分の膝を滑り込ませた。

「ちょ、あか…?!」

「好きだよ涼太。愛してる」

何を、と言おうとしたのだろう黄瀬君の言葉を遮って、愛の言葉を耳元で囁く赤司君。耳に息がかかったらしく小さく「ひっ」と悲鳴のような吐息が漏れた。赤司君の声音はそれだけでも凄まじい威力を発揮するのに、耳元でそれはそれは愛おしげに囁かれれば誰でも落ちてしまうだろう破壊力だ。学校で密かに作られている赤司様ファンクラブの女子達曰く、「赤司様のあの蜜のように甘く痺れる素敵なお声を1m以内の距離で聞いたら失神出来る、いや絶対出血多量で死ぬ」らしい。それを知っているのかいないのか、赤い顔のまま動かなくなった黄瀬君にさらに追い打ちをかける。

「お前の全部を俺にくれないか。お前を愛する資格がほしい。同じくらいの愛を返してもらえる恋人になりたいんだ。お願いだ、涼太」

どこか切なげに紡がれる告白に、ゴクリと唾を飲み込んだ。こんな赤司君は初めて見たかもしれない。いつもの余裕はどこへやら、試合中でさえ滅多に見られない本気の顔。逃がさない、とその表情が語っている。

「お前が俺以外の誰かのものになるなんて耐えられないよ。考えたくもない。愛してる、俺を選んで、涼太」

「赤司っち…」

これは黄瀬君流されてしまうんじゃないだろうか…?赤司君の悲しそうな必死な表情に、黄瀬君も釣られて少し苦しげに眉を寄せている。そして数秒見つめあった後、ゆっくりと赤司君の顔が黄瀬君の顔に近づいていく。おや?おやおやおや?そのまま行くと顔がぶつかってしまいますよ?もっと言えば唇と唇がくっついてしまいますよ?もしかしてキスをしようとしているのでしょうか?あ、あー、困ります、困りますお客様!せめて僕のいない所でやってください!これは本気でヤバいです。すぐにでも止めないと死ぬ(心が)。よーし、言うぞ。言うんだ僕。ふぁぁ、よく寝た。あれ、赤司君黄瀬君、おはようございます、何してるんですか?だ。今起きました、何も見てませんよという体を貫くぞ。さぁ、言うんだ。言わないと心が死ぬ。よし、321で言うぞぉ。頑張れ黒子テツヤ。僕はやれば出来る子。
よし…!!!さーん、にーぃ、いー…

「何をしているのだよ赤司」

低い、とても低い声が部屋に響いた。咄嗟に開こうとした口を噤んで、声の聞こえた扉へと視線を向ければ、そこには不機嫌を露わにした緑間君が立っていた。思ってもいなかった助っ人の登場に、思わず泣きそうになる。あぁ、神様はまだ僕の事を見捨ててはいなかったのですね。ありがとうございます。ほんっっとうに、ありがとうございます。お陰で吐血しなくてすみました。緑間神、ありがとう。緑間君の声に反応して、赤司君と黄瀬君も扉に視線を向けた。

「もう走り終わったのか?些か早すぎる気がするが」

「途中で赤司と黄瀬がいない事に気づいて戻ってきたのだよ。職権乱用して抜け駆けとは卑怯だぞ」

薄らと笑みを浮かべている赤司君を、睨むように見つめる緑間君。戻ってきてくれてありがとうございます、早くこの空気を壊してください緑間神。というか緑間君も僕に気づいていないのか…??つかつかと未だ密着している2人に近づく緑間君を、歓喜の目で見つめる僕。やっと日常に帰れる!3人が体育館に戻ったら僕は飛び跳ねて踊り出すことでしょう。そしてこの状況を作り出した全ての元凶であるガングログロスケをイグナイトでボコボコにしよう。僕の気が済むまで。
緑間君が黄瀬君の手を掴み、赤司君の腕の中からべりっと引き剥がした。引っ張られた勢いでそのまま今度は緑間君の腕の中に収まった黄瀬君は驚いたように緑間君を見上げている。

「み、緑間っち…?」

自身の腕の中に収まった黄瀬君をじっと見つめる緑間君は、引き剥がした時から掴んでいた黄瀬君の手をふいに持ち上げると、その手の甲にキスをした。らしくない緑間君の行動にぼわっと一気に赤くなる黄瀬君は言葉になっていない単語を吐き出していた。口づけてから再度真っ直ぐに黄瀬君を見つめ始めた緑間君の視線に、慌てて空いている反対の手で顔を覆おうとすると、今度はその手の指先にも軽いリップ音を立てて口づけされる。
多分今僕と黄瀬君は同じ事を思っているだろう。誰だお前。こんな伊達男は知らない。である。

「ちょ、ま…っ、待って緑間っち!」

「どうしたのだよ」

「どうしたって、それは俺が聞きたいんスけど…!いつもこんな事しないのに、いきなりどうしたんスか?!」

「前にも言っただろう。お前を振り向かせる為だ。赤司が相手では恥ずかしいなどと言っている間に掻っ攫われるからな。そんな感情は捨てたのだよ。俺なりの愛情表現を出し惜しみしない事にした。手加減はしない」

真面目な顔で言い放つ緑間君に、黄瀬君は口をぱくぱくと開閉させている。既にいっぱいいっぱいであろう黄瀬君の背後に、蚊帳の外にされていた赤司君がずいっと近づく。前には緑間君、後ろには赤司君と挟まれた状態で、両手と腰をそれぞれに掴まれて逃げられない状況になっていた。ああ、全く持って助けでも何でもなかった。寧ろ先程より酷くなっています。僕が一体何をしたと言うんですか…。僕の存在に気づいてくれないだろうかと目玉をかっぴらいてガン見して視線で訴えてみても、盛り上がっている3人には少しの効果もなかった。

「見せつけてくれるな緑間。お前にそんな情熱的な口説き方が出来たとは驚いたよ。だが、俺も負けてはいないよ」

「ふん。今回はお前にも絶対に譲らないのだよ。黄瀬には俺を選んでもらう」

黄瀬君を挟んで緑間君と赤司君が火花を立てながら睨み合う。その間も握った両手や回した腰を強くぎゅうぎゅうと掴んでいた。

「もう…ほんと、勘弁して…心臓持たない…しんじゃう…」

耳まで真っ赤な黄瀬君は尻すぼみにそう言って、両手で顔を隠してしまった。すみません黄瀬君。御三方の中に入っていけるほどの度胸もなければ空気の読めないアホでもないので、僕にはどうしようもないのです…。せめて骨は拾って丁寧に埋めますから、安心してください…。未だに(色んな意味で)戦っている3人から目を離し、僕は手を組んで心の中でアーメンと唱えた。



全ての始まりはあの日。どうしてそういう状況になったのかは分からないのですが、黄瀬君を挟む形で赤司君と緑間君が話し合っている場面に偶然立ち会わせてしまった時のことです。

「譲らないな緑間。なら黄瀬自身に俺か緑間か、どちらか選んでもらう。それでいいな?」

「えっ、ちょ、待って待ってそもそも俺2人のこと友達としか思ってな…」

「ああ、それでいいのだよ」

「俺の話聞いてる???」

「選ばれなかった方は潔く黄瀬を諦める。期間は黄瀬が俺か緑間か、どちらかを選ぶまでだ」

「口説き落とした方が黄瀬と付き合える、という事だな。受けて立つのだよ」

「えええ…俺の話は無視スか…」

黄瀬君がノーマルだった事が唯一の救いでした。赤司君に緑間君、2人がゲイだったと知っただけでもキャパオーバーなのに、そこに黄瀬君も実はゲイでした、なんて事になってたらもう卒倒して居たことでしょう。いや、寧ろ気絶できた方が幸せだったかもしれない。そうしたら全て夢だったと自分を騙せたかもしれないのに…。
その日から何やら赤司君と緑間君が黄瀬君を巻き込んで色々と恐ろしい争いをしていたことは、何故か僕の行く先々で繰り広げられる痴話喧嘩の内容から察してはいたのですが、直接的な場面はまだ見ていなかったので僕には関係ないだろうと忘れる事にしていました。なのにこんな形で巻き込まれるなんて、ガングログロスケにはイグナイトをお見舞いしてから更にバニラシェイクを奢ってもらわなければ割に合わないですね。


僕が部室から解放されたのは、それから30分以上経った後でした。やっと解放された喜びでスキップしながら青峰君をボコボコのボコしにボールを取りに行きましたとさ。



─END─



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