第二話
「じゃ、おつかれっしたー!」
「おう、気ーつけて帰れよ」
笑顔で挨拶をし、部室から飛び出す。
早く帰って、黒子っちに会いたい。
今日の夕食の事などを考えながら校門を通り過ぎようとした時、くんと腕を引かれる。
「よー、黄瀬」
「え、青峰っち!?」
振り返った先にいたのは青峰で、久しぶり、と小さく手を振った。
「久しぶりっスね!どうしたんスか?海常に何か用っスか?」
「ちげーよ。お前にだよ」
「俺に?」
何も約束などはしていないはずだが、忘れてる事でもあったのだろうか。
首を捻る黄瀬に、青峰が言う。
「久しぶりにお前と1on1しようと思ったんだよ。今からストリート行かねーか?」
「ホントっスか!?あ、…でも早く帰らないと黒子っちが心配するし…」
「…テツ?なんでそこでテツが出てくんだよ」
「…ううん、何でもないっス!明日じゃダメっスかね?今日はちょっとこれから用があって」
「まあ、別にいいけど」
「じゃあ、明日この時間くらいにストリート集合でいいっスか?」
「ああ」
その後青峰と別れ、家に帰ってすぐさま黒子に報告した。
「てことで、明日ちょっと青峰っちと1on1してくるから帰り遅くなるっス」
「………」
「黒子っち?どうしたんスか?」
「…いえ、あんまり遅くならないようにしてくださいね」
「了解っス!」
浮かない表情だったのが気になったが、すぐにいつもの笑顔に戻ったので触れないようにした。
次の日。
約束した時間にストリートに行き、既に来ていた青峰と1on1を楽しんだ。
「…っあー!やっぱ強いっス青峰っちー」
「何当たり前なこと言ってんだよ。お前が俺に勝てるわけねえだろ」
「いーや!そんなこと言ってると今に足元すくわれるっスよ!」
「へー、そりゃ楽しみだな」
笑みを向ける青峰に、黄瀬も笑顔を返し、隅に置いていた鞄を持つ。
「じゃ、今日は楽しかったっス!そろそろ俺帰るね」
「送ってく」
「え?」
「お前ん家ちけーし、送ってくって言ってんだよ」
まさかそんなこと言われるとは思ってなかったので驚いたが、青峰が言ってるのは今黒子っちと一緒に住んでる家ではなく、ちょっと前まで家族と住んでた家のことだ。
それに黒子から秘密にと言われているし、送ってもらうわけにはいかない。
「…えっと、気持ちは嬉しいんスけど、俺今あの家にいないんスよね…」
「は?なんだよ、一人暮らしでも始めたのかよ?」
「一人暮らしではないっスけど…、まあそんなもんス」
「なんだそれ。じゃあお前の家教えろよ」
「え!?いやいや、俺女の子じゃないし、一人で大丈夫っスよ…!」
「とか言って、ヤローにストーカーされたのはどこのどいつだよ」
「…ぅ…、」
その通りで、言い返す言葉が見つからない。
…黒子っち家の中にいるだろうし、玄関までだったら大丈夫かな…。
そう簡単に考えてしまったのは、相手が青峰だったからなのかもしれない。
ここまで言ってくれてるのを無下にも出来ず、了承してしまったのは。
「…じゃあ、お願いするっス」
「おう」
そう言って、青峰も自身の鞄を拾い、黄瀬と一緒にコートを後にする。
まさかこれが原因で他のキセキにもバレてしまうとは知らずに。
黒子と住んでるマンションに着き、入口前で足を止め青峰の方に振り向く。
「ありがとう青峰っち、ここ俺の家だからもう大丈夫っス」
「へー、結構良いとこ住んでんじゃねーか。ここまで来たんだし、お前の部屋教えろよ」
「ええ!?いや…、それはちょっと…っ」
「なに渋ってんだよ。別にそれぐらいいいだろ、減るもんじゃないし」
ど、どうしよう…!
さすがにそれは黒子っちに怒られるよね…!?
どう断ろうか悩んでいると、入口から見慣れた水色の髪の住人が出てくる。
それにさらにぎょっとし、こちらに気づかないでと願ったが、入口前にいるのだから気づかれないはずがなかった。
「…黄瀬君?」
「く、黒子っち…っ」
「遅いのでちょうどキミを迎えに行こうかと…、…青峰君?何で…」
「…何でテツここにいんだよ?」
顔を見合わせた彼らは互いに眉を寄せ始める。
黒子がチラリと黄瀬と見やったその顔は、他人から見たらただの笑顔だが、黄瀬から見れば怒っていることがすぐに分かった。
「黄瀬君、どういうことですか?」
「おい黄瀬、なんでテツがここにいんだよ」
─END─
三話に続く