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「…黄瀬ってさ、なんで俺には悲しそうな笑顔ばっか向けるんだ?」
「…え?」
部活の最中、ふと思い出したかのように唐突に火神君が僕にそう聞いてきた。
悲しそうな笑顔…?
黄瀬君が火神君へ向けているのは、憧れの、大好きな彼に向けているはずの笑顔のはずだ。
本当は、青峰君へと向いているはずだった笑顔。
叶わない想いを似ているキミに向けて。
悲しそうな笑顔なはずがない。
あんなに。
あんなに嬉しそうに笑いかけているじゃないですか。
「悲しそう、ですか?僕にはそうは見えませんけど」
「あー、悲しそうっていうか、なんていうか…。んー」
「…?」
こめかみを押さえて、いきなり考え込む火神君。
うーん、と唸りながら何かと葛藤している。
残念な火神君の頭ではいくら考えても無理だと思うんですが…。
「あーっ、分っかんねぇ!」
かばっと立ち上がりながら、ぐしゃぐしゃと頭を掻きむしる。
そんな火神君はまた何か思い出したのか、そういえばさ、と話しを切り出した。
「今日あいつ来るんだろ?お前に会いに」
あいつ、とは黄瀬君のことだろう。
それに正確に言えば僕にじゃなくて、火神君に会いに来るのだろうけれど。
「…はい。僕達の練習が終わる頃に、誠凛の校門前で待ってるらしいです」
今日の朝、急に黄瀬君からメールがきた。
『ちょっと黒子っちに相談したいことがあるから、今日そっち行ってもいい?』、と。
断る理由はないのですぐに了承のメールを返せば、ありがとう、とまたすぐに返事がきた。
多分、相談とはただの建前だとは思うけれど。
それを断ることは僕にはできない。
例え、火神君に会う建前だったとしても。
「そん時にさ、黄瀬の顔よく見てみろよ。多分分かると思う」
「…分かりました」
火神君に言われなくても、僕はいつでも黄瀬君を見ています。
なんで火神君なんかに指摘されなきゃ…。
そこまで考えて、はっとする。
また、嫌なことを。
大事な友人に…。
「黒子?聞いてるか?」
「…あ、すみません。聞いてなかったです」
「監督が呼んでるぞ。あそこ」
指さされた方に目を向ければ、小さく手を振っている監督がいた。
「ありがとうございます。ちょっと行ってきます」
「おう」
考えを遮断させて、早足で監督の元へと駆け出す。
火神君から離れられることにホッとしたことには、この時はまだ気付いていなかった。
‐END‐
5に続く