ボクらの記念日
今日はボクの誕生日。
ボクが生まれた記念すべき日だ。
誕生日っていうと世間一般では盛大にお祝いする催し事だろうけど、ボクは正直ピンと来ない。
その理由として自分が生に執着がないから。
もちろん死にたい訳でもないし、死に急いでる訳でもない。
ただ、死ぬ時は死ぬ。
それが自然の理であって、それに対して足掻いてまで生きたいと思わない。だから誕生日を祝ってもらうのに抵抗があるというか。自分の中で思うところがあるが故だ。
毎年、長期任務を入れたりしてはぐらかしていた。それを続けていると周りも何となく勘付くというか、祝う事をやめた。
それでいい、ボクは誰かに祝ってもらえるような人間じゃないのだから。
「……名無しさん」
ずっと、そうだった。
今年も、そうなる予定だった。
でも、今年は違う。
ボクの誕生日は…ボクらの記念日でもあるから。
「ようこそ、ヤマト」
「えっと、お邪魔します…?」
「あはは、なんで疑問形?」
「いや、もう夜も遅いし…」
柔らかな笑顔で出迎えてくれるのは愛しい恋人である名無しさんだ。
ボクは忍という立ち位置で日々任務で走り回っている、そして彼女は一般人。お互い見事に時間が合わなくて、周りのカップルと比べれば恋人らしい事はほとんど出来ていない。
それでも彼女と別れるという選択肢はボクの中にはなかった。どんなに忙しくても、たった少し会えるだけで心が満たされる人はそうはいない。
今だって任務が遅くなって予定より2時間くらいは押しているけど微笑みを決して絶やさない。その笑顔に何度助けられた事か。
寂しい想いをさせているのを分かっていながらも、君を手放せないボクはズルいかも知れないけれど。
「それは里のために頑張ってくれてるからでしょ?…いつもありがとう」
「…ん」
申し訳なさそうな顔を見せると彼女はつま先立ちをしてボクをギュッと抱き締める。
お風呂に入ったのか、入浴剤のラベンダー系の良い香りがふわっと舞って沈んだ心を落ち着かせる。
トクントクン。
心地良い心音に目を伏せて少しの間、彼女に体を預けた。
「ね、ヤマトお腹空いてる…?一応用意してるけど…」
「…ボク、名無しさんが食べたい」
「えっち」
「ダメ?」
「…お風呂でサッパリしてから…ね?」
「名無しさんはもう入ったと思うけど…一緒入りたいな」
「ふふ、今日のヤマトは甘えたさんだね。いいよ…でもその前に」
「ん?」
「一年記念日!これからもよろしくね、ヤマト」
「……こちらこそ」
「あと……誕生日、おめでとう」
誕生日を祝ってもらうなんていつ振りだろう。
君から発するその言葉は思っていたよりも悪くなくて、でも何処かむず痒い。
お互いに見つめあって、笑い合って、手を取り合って、ボクらは進んでいく。
来年も、再来年も、これからも先ずっと、ずっと。この日を二人で祝うのだろう。
君がボクを祝ってくれたようにボクはここで誓おう、君を一生愛すると。
fin
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HAPPY BIRTHDAY YAMATO 2020.08.10
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