01
「あー、もうヤマトってば動揺し過ぎでしょ!」
「仕方ないだろ…君には分からないよ」
動揺するに決まっている。ずっと想いを寄せていた人に彼氏が出来て、その相手がまさかのカカシ先輩。
そしてよりによって自分の誕生日に。
「…ね、こっち向いて」
「なにさ…っ!?」
―ちゅ
「ほっぺは子供過ぎるかな…?」
「っ、名無しさん…?」
何が起きた。
いや、何が起きたのかは解っている。
名無しさんがボクの頬にキスをしてきたんだ。
解らないのは、真意。
彼女はどうして、そんなマネをしたんだ。
「口、開いたままだけど、舌入れてもらうの待ってるとか?」
「そ、そんなわけ!!名無しさん、ボクをからかうは…」
「からかってないよ…」
「ん…っ」
ボクを見る瞳は至って真面目、ふざけてなんかない。だったら何故?
ちゃんとした相手がいるのに、どうしてキスなんかするのだろう。
いけない事だって解ってるのに、もう止まらない。
名無しさんの唇が、ボクの唇を埋める。
罪悪感はあった。だけど、こんなに甘いキスに理性なんて保てるはずもなくて。
すんなりと口腔に這入ってくるヌメリのある舌に翻弄されつつも、それに応える。
歯列をなぞる其れを自分の舌で絡め、吸い上げ、唾液を共有。
ピクっと小さく反応する身体に気を良くしたボクは、腰を引き寄せ抱き締め、さらに角度を変えて侵していく。
いつしか目を閉じていた名無しさん。
その表情は艶っぽくて、嫌というほど女を醸し出している。
これはボクを男として見てくれているという事?
解らない事だらけだ。
だけど、一度こんな経験をしてしまうと離れられない。
先輩になんか渡したくない。
名無しさんを、ボクの彼女にしたい。
「っ、はぁ…」
「は…ん、激し…」
「そりゃ激しくもなるよ…だってボクは君の事が…」
「ストップ!」
「!」
どんな手を使っても名無しさんを手に入れる、そう決意した。
でもまずは気持ちを伝えてからだ。どれだけボクが君を想っているか、それを伝えなきゃ始まらない。
すると急に声を荒げ出した。
「そこは私から言わせて?」
「私からって…?」
「本当に鈍感なんだから…。でも、そんな貴方が好き」
「…これも、からかってるの?」
「なんでそう思うの?」
「だって君にはカカシ先輩がいるじゃないか…」
「…あれは嘘、カカシさんに協力してもらって一芝居うったの」
「嘘…一芝居?ボクを騙したの?どうしてそんな事を」
嘘という事に心底ほっとしたのも束の間、モヤモヤがボクを支配する。
「怒った?」
「いや…」
「じゃあ、拗ねた?」
「…」
「図星だね?このままじゃ埒明かないから言うけどさ…ヤマトが悪いんだよ?」
「ボクが悪い?」
「そうよ…男ならちゃっちゃと告白して来いって話なの!」
「!!」
ボクもバカじゃない、この意味は理解出来る。そして同時に、お互いに想い合っていた事を。
どれくらい相思相愛だったのか。
笑える話だ。
「騙した事は謝るし、こんな事するなら自分から気持ち伝えろって話だけど…」
「…うん」
不思議だね。
今までじゃ分からなかった名無しさんのボクを想う心情が、手に取るように分かってしまう。
「女なら…誰だって、好きな人から告白されたいもんなの…」
「…ごめん、名無しさん。ボク…」
「そんな言葉いらない」
「…まったく、君ってやつは」
潮らしい姿を見せたと思いきや、男顔負けの表情と芯のある言葉。
そうだよね、そんな言葉は後からいくらでも言えるんだ。
ボクが今、彼女に伝えるべき言葉はたったひとつ。
「君が好きだ」
着飾る必要なんてない、素直な気持ちを伝えるのみ。
「…」
「ずっと待たせたけど、ずっとボクの気持ちは変わる事はなかった。それはこれからも変わる事はない。だから…ボクの彼女になって下さい」
「もう、ほんとに待たせすぎ…!」
「ごめんって。それで、返事は…?」
「ん、喜んで…!」
「わっ」
抱き着いて来た身体を受け止め、そのまま腕の中に閉じ込めた。
柔らかくて、心地よい名無しさんの身体。
ぎゅっと、逃すまいと強く抱き締める。
「ヤマト、ありきたりになるけど…プレゼントは私で」
「プレゼントって?」
「もう、今日誕生日でしょ!」
「あ…」
「おめでとう。ヤマトが産まれた神聖な日に、私を彼女にしてくれてありがとう…大好き!」
「っ」
祝って欲しいと思っていたのに、すっかり頭から抜けていた。
そう、今日はボクの誕生日。
なんて破壊力のある言葉なんだろうか。
嬉しさが込み上げてくる。
「こちらこそ…ボクを君の彼氏に、そして彼女になってくれてありがとう」
ありきたりでも何でもいい。
ボクは最高のプレゼントを受け取ったよ。
ありがとう、名無しさん。
fin
HAPPY BIRTHDAY YAMATO 2015.08.10
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