気付けば部屋にいた、ボク。
時間がそうとう経っていたのか外はもう真っ暗だった。
今日に限って月の姿さえ見えなくて、いつも以上に暗闇だと感じる。
そんな中、電気も付けず更に暗い部屋の中で一人考え辿り着いた結論。



「そっか…そうなんだね。お姉さんは相手の為なら……」



いともたやすく、姿を変える人だったんだ。

女性らしくと、髪を伸ばしていたのに。
相手の言葉で、その気持ちが簡単に揺らいで、相手の為に、その姿を変える。

でも、それを責める権利なんてないし、ボクが髪を伸ばすキッカケになったのもお姉さんが綺麗だと褒めてくれたからで。
結局、ボクは名無しさんさんと何も変わらない。



「あはは…ボクの、お姉さんじゃなくなっちゃったな」



ヒュッと…心の中の、何かが吹っ切れた感じがあった。

此の感情は…?

考えても何も分からない。
ボクは下ろしていた髪を自然と纏めていた。
纏めながら今までの事を振り返る、お姉さんとの思い出を。



「それでも、ボクは……」



吹っ切れた、何かが吹っ切れた。
………はず、なのに。

やっぱりボクは、ボクの髪を褒めてくれるお姉さんが好きなんだろうと思う…そう、名無しさんさんが好きだったんだ。

ボクの髪を褒めてくれたお姉さんは、いつしかボクの好きな人になっていた。名無しさんさんが、ボクの事を弟のようにしか見ていなくても好きだった、と今ならハッキリ言える。



瞳から、何かが溢れた。

それは何処か生温く、そして塩っぱくて…
涙と気付くのに時間がかかった。

ボクは追い求めてる、まだ名無しさんさんを。



「同じだよ、ボクも…お姉さんを求めて、いともたやすく…」



一度、考えが纏まったなら…ボクの行動は早い。

クナイを片手に、今まで伸ばしてきた髪を、綺麗と褒めてくれた髪を。



「姿を変えるんだ」



切ろう。



「惨めなのかな、ボクは?」



分かってる。
名無しさんさんを追い求めて、髪を切って、姿を変えても…無意味だって事。


だから、サヨナラするんだ。
純粋にお姉さんが好きだったボク

さようなら。
大好きだったボクのお姉さん



「さようなら」



ボクは名無しさんさんが褒めてくれた長い髪を躊躇する事なく切り捨てた。

ハラリと落ちて風で舞う。

惨めな気持ちもそれに乗せてサヨナラ。



「……自分でやるとガッタガタになっちゃうや」



短くなった髪。
クナイで切った裾はお世辞にも上手く揃ってない。首筋が少しだけスースーする。

でも、切った事に後悔はない。


これからどんな路を歩むのか分からないけれど…


其れでも前を進む。
其れが、ボクがすべき事。



「こんにちは、新しいボク」


fin
20200627
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