あれから数ヶ月が経った。
元々チャクラの練り方をマスターしていたボクの成長は早くて、クラス1番の成績になるのに苦労はしなかった。
毎日が充実っていうのは、きっとこういう事。
朝早くからアカデミーに通い授業を受けて、終われば自主訓練という名の修行。集中力に長けているボクの時間はあっという間に過ぎ去って気付けば夜になっている事が大半。
「はぁはぁ、よし…そろそろ帰ろうかな…」
肩で息をしながら忍具を片付ける。
そうしてボクは自然と呟く。
「…お姉さん、なにしてるかなぁ」
全身から汗が噴き出て、以前よりも伸びた髪が首筋や腕にはりついてベタつく。短い時にはなかった感覚だけど、不快とかそういうのは一切なくて。
髪を見て思い出すのは、お姉さんの事ばかり。
名無しさんさんは髪を伸ばしてるって言っていた。あの時もある程度の長さがあったけど、今はどこまで伸びてるのかな?
見たい、会いたい、声が聞きたい、話したい。
「…会いに行こう」
明日はアカデミーが休みだし、修行も一休みしよう。会いたくても会えない事があるもどかしさ。
でも、待っていれば必ず会えるはず。
忍は字の如く、忍耐力があってこそ。
明日の予定、お姉さんを待つ!決定だ。
ボクはそれから頭の中で名無しさんさんと出会った時の事を繰り返しシミュレーションした。
___
「……甲くん?」
「お姉さん!」
お姉さんが通る道を予測して、待ち伏せ。
待ち伏せ、だと微妙かな?
ちょっとだけ内心焦っていると、ボクの事が視界に入った名無しさんさんはいつものように微笑んで近くに寄ってくれた。
「わー久しぶりね、元気だった?怪我とかしてない?」
「はい、怪我はしてませんしボクは元気です」
「そっか、良かった!心配してたんだよー。…あっ、髪伸ばしてるの?綺麗だね」
「えへへ…」
気付いてくれた、髪を伸ばしている事に。
たったそれだけなのに、嬉しくなって頬を染める。
お姉さんがボクの伸びた髪に触れた。
女性特有の細い指が髪に触れる、この瞬間がとても好き。
でも、綺麗っていうのは名無しさんさんのような人の事を言う…そう、言えばどんな反応をするのかな。マせた子供とか思われちゃうかな?
それは嫌だから、ぎこちなく下を向いて黙ってしまった。ずっと黙っていると不審に思われちゃう。
何か話そうと考えて気付かれないようにそっとお姉さんを見つめると、手入れされた爪も健在で。
そうだ、あの時に聞きそびれ事を聞いてみよう。
「お姉さんの爪綺麗ですね、それ何色なんですか?」
「ネイル気付いてくれたんだ?色…んーー薄桃色?って言えばいいのかな。可愛いでしょ?甲くんもこの色好き?」
「はい!」
薄桃色。
それはお姉さんみたいに、ふんわり淡くて、可愛くて、本当に似合っている。
「そんなに喜んでくれるなんて思ってなかったから、お姉さん嬉しいな、ありがとう。甲くんのアカデミーの話とか色々聞きたいんだけど…これから、人と待ち合わせしてるから…じゃあ、またね」
「ぁ、引き止めてごめんなさいっ!…また」
昨夜の内にあれだけ意気込んだけど…会えて、話せた時間はたった少しだった。
少しだけしか名無しさんさんと関わる時間がなくて、ボクだけがこんな風にお姉さんを思っているのかな?
どこか、寂しいような気持ちになってしまう。
けれど、ボクって単純。
名無しさんさんのまたね
その一言で嬉しくなっちゃうんだもん。
次に会えるのはいつだろう?
ボクはお姉さんに会う度に、その会いたい思いがドンドンと募っていった。
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