求める指先、触れた心
鏡を見るたびに、そこに映るモノは別物だと感じる。いつも見る悪夢の恐怖をそこに押し込めて、鏡の中の自分は、口角を上げて人当たりの良さそうなヒトだった。
連日の任務の疲労も、しっかりと睡眠をとらなくてはいけないのに、どうも浅くなりがちだ。けれどその疲れさえも隠して、表面上は仮面のように笑顔を張り付けていた。
「テンゾウ大丈夫?」
「――あっカカシ先輩。えぇ大丈夫ですよ」
「そう。ならイイけど」
まだ何か言いたげな鋭い先輩を振り払うように、ナルトたちの話題に変えた。
憧れの先輩だからこそ、弱い自分を晒したくなかった。そんなもんだから、その日、全てのつけが回ってきた。
「――ッ!」
「起きましたか。あっ起き上がらないでください。そう、そのままで。・・・・・・ここは木ノ葉病院です。過労と栄養失調で倒れたんですよ。あなたが運び込まれた時はびっくりしました。相変わらず自分を追い詰めているのね、テンゾウ」
「あっ、」
業務用の口調から、一瞬にして変わった懐かしい声音と女性の表情。そう、彼女は、名無しさんだ。元班員で、元恋人で・・・・・・ボクが勝手に彼女から離れてそれっきりなのに、君はそれを感じさせない空気を纏って、昔と同じように話しかけてくれる。
ボクの臆病虫が動き出すより早く、声で制された。
「今は休養することが仕事です。それにあなたは私の受け持ち患者なんです。退院するまではこちらの指示に従ってもらいます」
「・・・・・・わかりました」
「よろしい」
仕事口調なのにその笑顔は昔のままで、ふいに心が揺さぶられた。固く閉ざされた壁の隙間をぬって、針がちくりと心臓に突き刺さる。
ちくん、ちくん。
名無しさんを見るたびに、心がざわつく。それは日々を重ねることで小波は波となり、やがては大波になってボクをつき動かしていた。
「ねぇ、名無しさんさん。どうして君はボクを責めないんだい?」
「・・・・・・テンゾウは、責めてほしいの? 別れも告げずに自然消滅を謀った最低なクズ男って」
りんごの皮を剥きながら、名無しさんは綺麗な切り口のように意味を持たない文句を流す。淡々としたもののはずなのに、名無しさんの口から聞くとズタズタに心を掻き壊された。
「名無しさんさんの前では形無しだなあ。ホント、情けない」
「でも私はそんなテンゾウも、好きよ?」
語尾を上げて、濡れた瞳は真っ直ぐにボクを捉える。大人になって色気を含んだソレは、気づけばとんでもないことをしでかされるほど魅力的なモノだった。
「相変わらず可愛いことをしてくるね」
「――あっ、ごめん」
急いで離れようとすると、名無しさんは頭を包みこみ、抱擁を確かなものにした。
あぁなんて。なんて、懐かしいものだろう。
ずっと埋まらなかったピースが、いまふさがった。
「明日で退院だねテンゾウ。おめでとう」
「・・・・・・まだ、明日じゃないよ」
名無しさんの裾を気づかれないようそっと摘んだ。まるで子どものようだ。
まだ人に甘え慣れないボクは、名無しさんの前だと全てをさらけ出してしまう事が不安で、怖かった。だから逃れるように離れた。それなのに、どうして・・・・・・こうして抱きしめ合うと心も、身体も、全てが名無しさんを求めていたことに気付かされる。
「退院したくないな。やっと名無しさんさんに会えたのに」
「それでも明日はやってきて、患者と看護師の関係は終わるね。でもその後は、ただの男と女として会えるじゃない」
「・・・・・・また来てもいいかい」
「患者としてなければ、いつでも」
久しぶりに心で笑った。今まで乖離していたボクが、ひとつになった。
奇跡や運命なんて曖昧なものなんて信じないけど、この再会ばかりはどうしてもそう思わざるを得ない何かを感じていた。
"ありがとう"
それは神にも名無しさんにも告げられる、自然と溢れ零れる想いだった。
END.
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pumtoma/葉様より
相互記念夢
【頂いた「心の本音」より2人の再会した過去話を相互記念夢として。
頂いた小説の2人の関係がたまらなく好きすぎた故の犯行。】
まさかの、まさかの…!
勝手に送りつけた夢の続きを書いて頂けるとは…!私のつたない夢を、素晴らしい形で続けて下さるなんて…本当にありがとうございます!
こんな犯行なら何時でも、喜んでお受けします〜←
葉様、ありがとうございました!
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