出会い
ある日、火影様より暗部総隊長の元で働く命を受けた。
暗部総隊長、すなわち木遁使いのテンゾウ。
彼の事はもちろん知っていた。
先代火影様と現火影様の信頼も厚くて、何より初代火影様の秘術である木遁を駆使するのは有名な話。
性格も人当たりも良いと聞く。
ちなみに同じ暗部内なのに会ったことはなかった。お互い実力もあり忙しい身、さらに総隊長は大蛇丸の監視という大役を仰せつかり、里の為に常に警戒体勢を取っているから尚更だろう。
そんな人の元で任務につける事になるとは…忍冥利に尽きる。
「とりあえず…挨拶には行かなきゃな」
一小隊の隊長と暗部のトップである総隊長、立場が全く違う。
そう考えると、さすがの自分も緊張していた。何故なら彼は私の憧れ、目標とする内の一人だから。
「総隊長」
「…君が名無しさんだね。任務内容はもう分かってると思うけど、なにかあった時にボクらは率先して動かなきゃならない。君の実力は申し分ないし、期待している。詳しい事は近々話すから、また連絡するよ」
「御意」
「あと…総隊長なんて堅苦しいから止めてくれるかい?」
「…では、テンゾウ隊長…」
「うん、それでよろしく頼むよ」
穏やかな振舞いと律儀な物言い、だが何処か掴めなくて。それから特に会話もなく、挨拶と顔合わせは終了。
いつものように任務をこなす日々が続いた。
今日の任務は取引の際に奪われた密書の奪還、あわよくば忍の始末。
奪ったという行為は木ノ葉を裏切ったという事に値する、危険因子は早々に対処すべきとの判断。
部下を引き連れ森を駆け、ある程度進んだ先で標的を確認。
こうなる事を予測していたのか相手は10人、見る限り全員が上忍クラス。
対してこちらは4人。それもその内1人が新人…少し歩が悪いかもしれないが、退散する事は出来ない。
「ハハハ、たかが4人で勝てるとでも!?死ねえぇぇ!!」
嘲笑うような声と忍具のぶつかる音。
なるべく敵を自分に引き付けつつ応戦。
「……!危ない!!」
刀や忍術を駆使して敵を薙ぎ倒していくが、ここで場数の踏んでいない新人の実力が浮き彫りになる。敵のクナイを受け、バランスを崩し木から落ちてしまった。
慌てて駆け寄り空中でキャッチするが、相手がそれを狙わないはずがない。
幾多のクナイが一斉に自分に向けて放たれた。あれをまともに受けると致命傷は確実。
しかし、伊達に暗部として死線を越えてはいない。
「どうにかして着地しなさい…」
一言呟いて受け止めた子を真下へ突き落とす。
これで、あのクナイの標的は自分だけ。
「あとは…逃げろッッ!!!」
それは合言葉。
同時に他の仲間は私から離れる。
それを確認して、素早く印を結びチャクラを性質変化、形態変化をさせ雷を呼び起こす。
身体から雷を放電させ、バチバチィという凄まじい音と、辺り一帯に眩しい光線。
「…ふん…」
焦げたような臭いが辺りを漂う。
忍の人数と生死を確認しつつ、リーダーとおぼしき人物から密書を探し奪還成功。
任務はこれにて終了だ。
「怪我人は速やかに病院へ。報告書は私が出しておく…では散!」
里へ帰還し皆が解散した事を確認し、自分も傾れ込むように家へと戻った。
その理由は、身体が思わしくないから。
報告書は後からどうとでもなる。
腕を見ると数ヵ所の擦り傷や切り傷。
クナイでやられたもの。
ただの怪我なら治療をすれば問題ないが、どうやらあのクナイには薬が塗られていた。
「催淫剤かっ…!」
今日はいつも組むメンバーと違い新人がいた、すなわち私の雷遁を知らない者。
予め使用する術は伝えていたが、実際その場で目の当たりにしなければ、どう動けばいいか分からないだろう。いくら予測をしていても巻き添えを喰らう事だってある。もちろん任務遂行の為に犠牲を伴う事は時には必要だが、今はその時じゃない。
その為に力を制御した結果がこれだ、全てのクナイを防ぐ事が出来なかった。
トータル的に見れば部下も死なす事もなく密書も奪還し無事に帰って来れたが…敵の攻撃を受けるミス、無様には変わりない。
しかし、毒ではなく媚薬の類いとは…外道め。
「くそっ…」
普通の女ならば自慰や、はたまた男に頼ったりするんだろう。きっと頼めば喜んで名乗り出る者がいるはず。
が、それはプライドが許さなかった。
そこへ、チャイムが鳴った。
誰だろう?
私を訪問する者なんて滅多にいない。
気配を消して玄関先まで足を運び、ゆっくりとスコープを覗き込む。スコープから見える人物に目を見開いた。
「テンゾウ…隊長?」
何故、この人が私の家を訪れるのだ。
もしや、私が催淫剤に侵されている情報を得た?
いや、例えその情報を得たとしても何のメリットもないだろう。
他の男ならまだしも、彼はそういう人の弱味に付け込むような卑怯な男ではない。年齢もそこそこいっているし精神的にも肉体的にもいい大人だ。
そもそも存在は知っていたとしても、関わった事もないから私に興味なんてないはずだろう。
さて、どう出る?
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