06


火影様の一言に安心したのか、彼女はすぐに意識を失い軽い昏睡状態に陥ってしまった。

ひとまず怪我の治療を試みる、比較的軽い傷だったので消毒をし包帯を巻く。


「さて…」


どこに寝かせるか、そんな話が出てくる。
怪我人なので病院に入院すれば問題ないが、彼女はこの世界の人間じゃないので下手に他の者に知られてはいけない。


「火影様、ボクが…彼女を看ます。いえ、看させて下さい」
「…ふむ、そうじゃな。他に行くところもあるまいし…。テンゾウ、数日の休暇を与える。名無しさんの様子を看てやれ」
「はっ」


軽く頭を下げて、瞬身の術で帰宅。

何か言いたげなカカシ先輩もいたが、この際気にしない。こんな行動に出た事に一番驚いてるのは自分自身。

この一連の行動の理由はきっと、ボクは彼女が気になっていたからだ。



***



「……」
「目が覚めましたか?ここボクの家です。結界も張ってあるので安心して下さい。…動けますか?」
「ん…何とか。うー…お風呂…入りたい」
「じゃあ今沸かしてきますから、少し待ってて下さい」


第一声が思っていたより元気そうでホッとした。風呂場に行き、お湯を張る。
その間にバスタオルや替えの服を用意。ひとまずボクの着ているものを出した。


「名無しさんさん、出来ましたよ。こっちです」
「ありがとうテンゾウ。ねぇ…」
「はい?」
「…一緒に入る?」
「えっ…!」
「ふふ、じょーだん。入らせてもらうね」


脱衣場のドアが閉まる音に布が擦れる音。

扉一枚向こうに、彼女が裸体でいる。

顔に熱がこもったのは、きっと気のせい。
冗談を言われた時に顔が熱くなったのも気のせいだ。


「名無しさんさん、ボク数日間休暇を頂いたので…何かあれば言って下さい」
「ありがとう…」


お風呂上がり、落ち着いたところで話を進めた。

察しの良い彼女の事だ、その間に頭の整理をしろという意図も理解しているだろう。


「さ、今日はもう寝ましょう?ボクも疲れましたし」
「ん、じゃあソファ借りるね」


やっぱりそう来たか。

でも女性をソファに寝かしておいて、自分は悠々とベッドで寝るなんて出来るわけない。


「名無しさんさんはあっち、ベッドで。ボクがソファで寝ます」
「いやいや、さすがにそれは…」
「聞こえません、もう眠いんで寝ます。おやすみなさい!」
「あ…!もう…疲れてるって言ってたくせに」


彼女の言葉を無視して、ボクはソファを占拠し寝転がり目を瞑る。


貴女に比べたら、こんな疲れどうってことない。


大きな溜め息が聞こえた。
諦めたかな?


「わっ…!」


そっと目を開けて様子を見ようとしたら…目の前に彼女の顔がアップで映った。


「テンゾウは若いのに紳士だね…ありがとう。おやすみ」
「ぉ、おやすみなさい…名無しさんさんっ…」


至近距離で見た、顔。睫毛は長くて、唇はぷっくりとして潤いがあり、どれほど柔らかいのだろうと触れたい衝動に駆られる。なにより、彼女自身の甘い香りが鼻腔を擽って…

その夜、中々寝付けなかったボクがいた。





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