08


人目を避けつつ、カカシ先輩の家へ向かう。
後ろには一人の女性、名を名無しさんさんと言う。

出会いはつい先日。
先輩と二人で行った任務の野宿中、彼女は唐突に現れた。新手の敵か、殺られる前に殺る。先手は取った。先輩がクナイで脅し、ボクが木遁で拘束。

その女性は綺麗な人だった。不審人物には変わりないのに、いやに目を奪われたのを覚えている。
だけど彼女は強かった。
あっという間に形勢逆転され、あろうことかボクら名前や年齢さえも知っていた。そのまま寝るといった行動、目が覚めたら覚めたで、敵意はないやら未来から来たやら…頭でも打ったのかと思った。最後には血迷ったのか服を脱ぎ出す始末。サラシが巻かれた引き締まった上半身と黒のショーツ姿でこちらを見据える。

女性に対しての免疫がなかったわけじゃないが、いきなりの行動に驚く。さらにサラシもほどき始め、細身の身体に似合わない大きな胸がそこに現れた。形の良いそれに、いっきに顔が紅くなった。
敵意がないと言うのは分かった、もう十分伝わった。ボクは堪らなくなって木遁で彼女の姿を覆い隠していた。


そこから話は一気に飛躍し、秘術を扱う今は亡き一族の生き残りだと。全てを話し終えた後、彼女の意識がぐらついた。慌てて受け止めて始めて気付いた、なんて軽いんだと。
過去から来たなんて、すぐに信じられるものではなかったけど火影様からの信頼も厚かったし嘘ではないようだ。

素性も分かった、明るい今の名無しさんさんからは想像も出来ないほどのツラい過去。
そんな貴女を守りたい、ただ純粋にそう思った。気づけば名無しさんさんが目覚めるまで、自分が介抱すると口走っていた。
そこで知る彼女の弱さ、やはり守ってあげたい。

だからこそ、カカシ先輩と共に住むという火影様の発言に動揺したんだ。


「どうして、ボクじゃないんだろう…」
「…テンゾウ、なにか言った?」
「…!い、いえ…」


裏路地、周りに気を配りつつ名無しさんさんが声をかけてきた。


「なら良いけど…」
「…あそこが、先輩の家です」


里の外れにある先輩の見慣れた家に着く。
匂いで気付いたのか、窓からひょこり顔を出してきた。


「火影様から聞いてると思うけど、名無しさんはこれからオレと一緒に住んでもらうから」
「さすが火影様…カカシは暗部部隊長だし、監視下の意味も兼ねて的確な判断だと思う」
「監視下だなんて…そういう意味ではないかと…」
「理解が早くて助かるね」
「せ、先輩…」
「私は邪険に扱われないだけで、ありがたいから大丈夫」
「んじゃ他の奴らに見つかったらめんどうだから、ひとまず入ってちょーだい。テンゾウもな」
「分かった」
「お、お邪魔します」


何度が訪れた事のある先輩の家の中へ通された。
質素な内装は変わっていなかったが、いつもと違ってゴミ袋が何個もあったりと珍しく散らかっていた。


「やっといま片付けたとこだから埃っぽいかも」
「片付けた?」
「あれ先輩、今日は任務だったんじゃ?」
「そ、任務…。オレの部屋の一室を名無しさんが快適に住めるようにする、ね」


まさかの台詞に二人揃って目を見開く。


「まっ、監視下うんぬんはひとまず置いといて……火影様もオレも迷惑とか思ってないから。その…最初は突っかかって悪かった」


先輩の手が彼女の頭に触れ、そのまま撫でる。

名無しさんさんの身長はボクより少し高くて、先輩より低い。自然と二人の目線が合う中、ボクは見逃さなかった。
そこに優しく微笑む先輩の瞳があった事を。
もちろんボクだって迷惑とか思ってないし力になりたいとも伝えた。彼女だって、それを受け止めてくれた。

だけど…こんなの見せられちゃ、なんか悔しい。


「行動は制限されると思うけど、行きたい所があるなら言って。オレかテンゾウが必ず一緒に動くから」
「監視下、だもんね」
「ん、そいうこと」
「…」


監視下という名目は彼女の為なんだと、そこで気づく。
共に動いていれば何かあればすぐに対処出来るし、名無しさんさんだって傍に誰がいる事で安心出来る。
でも彼女は人に頼ったりする事に慣れていないから、火影様なりの配慮がこの形なのだろう。


「さて、腹減ったな…テンゾウなんか作ってくれよ」
「え、ボクがですか?」
「そ、オレ任務で疲れたし」
「はぁ…」
「テンゾウ、良かったら私が作ろうか?」
「え、いや!ボクが作ります、名無しさんさんと先輩は休憩してて下さい!」


彼女の手作り料理には興味があったけど、これはボクのアピールチャンス!
一人暮らしだから家事や料理はお手の物。数日前にも手料理は振る舞ったが、カカシ先輩の前で見せつけてこそ。

そうと決まればまずは買い物!
スキップをしそうになるところを抑え、食料を調達にしにいった。



が、帰ってきたボクを出迎えたのは名無しさんさんと、その膝の上で熟睡している先輩…

うぅ、どうしてこうなったか聞く勇気もない。

そこから分かるのは、何だかんだで先輩も彼女に惹かれているという事。


侮れない!





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