赤と黒の境目


黒、黒、黒。
辺り一面、何処を見ても黒。

おかしい、何故黒いんだろうか?
ボクは確か赤で染めたはずなのに。







彼女は【赤】が好きだと言っていた。
赤が好きだなんて、女の子らしくて可愛いよね?
でも【女の子】っていう表現をすると君は怒る。


大人の女性に、そんな表現は失礼!


大人の女性なら微笑んで受け入れるんじゃ…っと、独り言ね。
どっちにしろ怒ったりする君は可愛いんだ、そもそも君の全てが好き。怒ったり、泣いたり、感情を露わにして、ボクの前に存在する君が好き。そう、ボクの前だけでそれらを見せてくれる君が好き。

だから許せないんだ。



___




「変な男に引っかかっちゃったんだね」

「っ、、っ、、っ、、」

「…寒いの?大丈夫?」



見たくなかった。

ボクの愛しい彼女が他の男と…考えるのも、口にするのも吐き気がする。少しだけ口元を押さえ顔を顰めながら周りを観察。床に散らばる脱ぎ捨てられた衣服、ベッドの上で裸体になっている君と……男、だったカタマリ。

男女が裸になってベッドの上でする事は限られてるよね?



「な、っ、んで…こ、こ、こ……」

「こ、こ?…鶏みたいで可愛いなぁ、君は」



うん、冷静になれボク。
彼女は裸なんだ、寒くて震えて言葉が出ないのかもしれない。シーツを掛けてあげたかったけど、見知らぬ男の匂いが染み付き汚れている。

どうしようかと悩んだ末に思い付いた。
そうだ、ボクのアンダーでいいじゃないか!長袖だしサイズは大きいから寒さは凌げるだろう。今度は自分が裸になっちゃうけど、別に問題はない。君に見られる恥じらいなんてないしね。むしろ、見ていいんだよ?的な。



「さ、これ着て」



声を掛けたけど反応が乏しい。
いつまでもこの姿だと風邪を引いてしまうので、脱いだ服を強引に頭から被せる。

さっきまで自分が着ていたアンダーを着てる君…
こう、唆るものが。




「…ヤマト……」

「なんだい?」

「どうして…どうして… 殺したのッ!!!??」



引き寄せる服がないのでボクの腕を力を込めて掴み怒鳴る君。見れば指先は皮膚に食い込んで血が滲み出ていた。

激しいなぁ…
こんなにボクを求めるだなんて嬉しい。
君がオーケーならボクもいつだってオーケーだよ?

でも、その前に彼女の問いに答えなきゃね。



「そりゃ邪魔だからだよ。君に似合わない、そんな男。そもそもボクっていう男がいるのに…ひどいなぁ」

「ひどい…?ひどいのは…ヤマト、でしょ……なにも、ころ、さなくても……うっ、あ…ぁ!!」

「うーん、やっぱり一般人は脆いね?こんなにやりがいのない殺しは久々だよ」



忍術を使うまでもなかった。

ボクが此処を訪れた時は既に行為を終えた後。
ベッドの上で眠る可愛い君の横に眠る男が心底憎いけれど、殺気を出すと気持ち良さそうに眠っている彼女も起こしてしまいそうなのでトントンと彼の肩を静かに叩く。

ん?と目を擦りながら此方を見る男。

クナイを取り出しを突きつけると、たったそれだけで怯む相手。
ペロリ、手入れのされたクナイを舐め上げる。切れ味の良い刃物はボクの舌を傷つけ、ポタポタと滴る液体が口の中を満たしていく。ある程度溜めて、ゴクンと一飲み。

ワインのように美味な味に酔いしれながら、男の首筋を狙い一振り。ボクの舌の傷口とは比べ物にならないほどの鮮血が噴き出す。


ブシャァァァ…と、まるで行水。


見知らぬ内に殺気を出していた所為か、そこで彼女が目を覚ます。そして冒頭へ。



「好きだったのに……ひどい、ひどい…人殺し…!!!」

「あはは、名無しさんってば冗談が過ぎるよ。任務で何人も殺してるじゃないか、忘れたの?それに君が好きなのはボクだろう?」

「ひっ、く…う、あ…つ」

「うんうん、泣いた顔もイイね。可愛いよ。あ、そうだ、名無しさんって赤が好きなんだよね?よし、もっとボクが部屋全体を赤色にしてあげるよ」

「……ぇ?」



既に事切れた相手の頭を掴み、今度はチャクラを込めたクナイを横一線に振り切る。高性能な凶器と化したソレはいとも簡単に首の骨を断ち切った。

首と頭が離れ行き場を失った身体は崩れ落ち、またもや血が溢れる。すかさず、そのまま勢いよく振り回すと壁一面に血が飛び散る。



「こいつの醜い顔は見たくないけど、血に罪はないからね。ほら綺麗な赤の模様が出来上がったよ?」

「やだ、やだ、やだ、やだ…!!!!」

「やだ?なんで?赤が好きって言ってたじゃないか…嘘なの?んー嘘ならお仕置きが必要…」



なんでそんなに錯乱状態なんだろう?

…分からない。
分からない事に苛つく自分に苛つく。
このままだと、彼女に手を出してしまいそうな自分がいる。

ボクはひとまず目を閉じて深呼吸。
深く息を吸って、ゆっくりと息を吐く。

暫くして目を開け、一つの答えに辿り着く。



「あぁ、そうか……」



真っ赤な血っていうのは、いつしか…



「黒になっちゃうから嫌なんだね?」



心なしか、先程までの血が黒く見えて来た。

 
黒、黒、黒…


うん、これじゃあ確かに好きな色とは程遠いよね。




「名無しさん」

「ひっ、近寄らないで…!!」

「何もしないよ。それよりもごめんね?赤が好きって言ったのにドス黒いものが纏わり付いちゃってる。ひとまずお風呂入ろ?ボクが身体の隅々まで綺麗にしてあげるから」



焦る事はない。
まず大事なのは彼女の身体を清める事。

今すぐボクのモノを中に入れて消毒もありだけど、それはまた今度。

屍体処理は木分身のボクにさせておこう。




「名無しさん、愛してるよ。どんなに汚れてもボクは君を嫌う事はないから安心してね」




ボクが嫌いになる事なんて未来永劫ないだろう。

そう、君がボクを嫌う事はあっても…ボクは君を手放す気はないのだから。



fin
20200519




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