最低な男
最初から解っている。
ボクの声が届かない事なんて。
死んだ人…恋人を求めて禁術に手を出し、君は堕ちてしまった。
心底、腹が立った。
腸が煮えくり返るとはこの事を差すのだろう。死んでも尚想われ続けるその男と、死んでも尚想い続ける君に。
不老不死や人を生き返らせる、それほど魅力的な事なのだろうか?そんな人の理を覆すような事、出来るわけがない。
理解に苦しむ、苦しんで苦しんで、行き着いた先は……
「気分はどう?最愛の人」
「………」
深い森の奥、そこから更に地下に木遁で作られた家と回りを覆うように張られた結界。
ボクと君以外知ることのない場所…まさにパラダイス。
「あれ、無視?あぁ…そっか、心配なんだね。気付いてると思うけど此処は地上からだいぶ離れてる。でも安心して、何日も掛けてチャクラを練った木遁だから強度はバッチリだよ。空気の循環だってちゃんと考えてるし…ほら、内装だって拘ったんだよ?」
ピンクが好きと言っていた。
ベッド、タンス、食器棚…
木遁で作れるものばかりだけど、色まで変える事は出来ない。だったら買えばいい。
君が気に入るようにピンクの小物や生活に必要なものは粗方揃えた。お陰で出費は重なったけど、これから始まる新生活の事を考えると苦でも何でもない。
ベッドの上で手首を拘束されている最愛の人…名無しさんは相変わらず無言を突き通していた。側に寄り、透き通る肌に触れた。どうやら痺れ薬が未だ効いているようで身動きが取れない様子。
自然と口元が弧を描くのは仕方ない事だ。
「名無しさん」
名前を呼ぶが、声を出せない君はボクを見据えるだけ。その眼には何の感情もなかった、本当に只ボクを見据える。
「愛してるよ」
目の前にはボクしかいないのに、心在らず。
君の意識や想いは未だに亡くなった男の処にあるのだろうか。悔しいとか、悲しい、虚しい、そういった感情がないわけじゃないけど、今のボクにはどうでも良かった。
ポーチから解痺薬を取り出した後、自らの口に含んだ。そのまま名無しさんの顎を軽く上げて気道を確保しながら零れないように口移しで飲ませる。独特の苦味を感じるが、君を味わう事によって相殺される。程好い粘液が纏わりついた舌先を絡めて咥内を堪能。
薬は即効性。
面白いほどに顔がしかめ面になり、ボクを睨む君が其処にいた。
「ふふっ、やっと目を覚ました感じかな?」
「…ヤマト」
「なんだい?」
「最低の男だったんだね、アンタって」
「そうかな…。でも名無しさんだって最低の女だよ?弱くて死んだ男の為に禁術にまで手を出したんだから」
「そんな最低の女を監禁してる…最低の男じゃない」
「……そう言われたら返す言葉はないか。確かに最低の事をしているバカな男かも知れない、仕方ないだろ…愛してるんだから」
ボクは、堕ちた。
いや、ボクも堕ちたの方が正しいか。
誰にもバレない場所を作って、名無しさんを拐い監禁した。
ボクの思考回路はとうの昔に狂っていたと思う。君が他の男を好きになった時点で、ボクほど君を愛してる男なんているはずもないのに。
でも良いんだ、全て過ぎた事。
今、君はボクの目の前にいるのだから。
「反吐が出る」
「反吐でも何でもいいよ、名無しさんはもうボクだけのモノなんだから」
「……狂ってる…返して、私を戻して…あの人の元に逝かせてぇ…!!」
さぁ、これからどうしようか?
食事も何も与えず放置するのも良し、毎日犯すのも良し、孕ませるのだって良し。
生で何回まで出せるとか一回やってみたかったし、後ろを開発するのも、色んなプレイも良し。
そう、ここでは何もかもがボクの自由!
殺すのさえも、ね。
「諦めて、もう地上には戻れないから。ねぇ、名無しさん…」
アイシテル、イツマデモ。
fin
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