夏直前合宿 6月に入ると野球部は合宿が始まったらしく、隣の沢村はなんだかお疲れだった。 「沢村、金丸が寝たら報告するぞって」 「はっ!!」 「大丈夫?沢村。」 「おぅ。」 「今日は昼休み来なくていいからゆっくり休んだら?」 「いや。だいじょーぶ。」 「いやいや、まじで。」 あれから結局沢村の自主練としてお昼休みにフォームを見ることを約束はしたのだけど制服でやるというのと時間が短いということであまり進歩はなく、逐一クリス先輩(あれからメルアドを交換してもらった。)には報告しているのだが、主にやるのは部活の時に直してくれるみたいで私が沢村の球を受けるのは少し先になりそうだった。 合宿中は朝から晩まで野球部のグラウンドからは声が聞こえてくる。 ある日、それはいつもは終わっている時間にまで続いていた。 「 繭 、ナイターがついてる。」 その日はゆきも部活が早く終わって私達はコンビニに向かって歩いていた時だった。…青道の近くにあるコンビニはグラウンドに近い場所にあるので、学生寮からは見えないグラウンドを近くで見ることができるのだった。 珍しくナイターがついたその場所には片岡先生からノックをうける選手たちの姿を見るのだった。 「もう一球、お願いします。監督」 その姿は一言では表せないくらい凄かった。 …もし、私が女でなければ、今頃この人と一緒に野球をしていたのだろうか。 なんて少しらしくないことを思わず考えてしまうのだった。 私達はしばらくその場から動けなかった。 「あれ、成宮。」 「沢村お疲れー。」 少しするとストレッチを終えたであろう選手たちが中から出てきて、その中には沢村の姿もあるのだった。 「成宮、こんな時間に一人できたの?」 「ううん。あそこ。」 「あー、ゆきと一緒か。にしても、危なくね?」 「まぁコンビニ行こうと思ってただけだしそんなに深く考えていなかった。」 ゆきは沢村より先に出てきた小湊先輩のところに行っていた。 遠くからしかわからないが、ゆきは小湊先輩に泣きそうになりながら何かを話しているように見えた。 「きっとあれが本来の兄弟なんだろうね。」 「成宮?どうしたよ?」 思わずそう口に出してしまった。 「あ、ううん。なんでもない。」 「…?そう言えば成宮って野球やってたんだろ?」 「そうだねー。」 「今度さ、一緒にキャッチボールやろうぜ!」 「いいけどさー、取れんの?」 「むっ…取れる…はず。」 「はずって。」 「だってお前女じゃん。ってか成宮ってポディションどこだったんだよ?」 「知らない。だって家でしかしたことなかったし。」 「へぇー。あー、なんだっけお兄さんがやってたんだっけ?」 「そそ。自己中な兄だから気ままに投げたりとったりしてただけだし。」 「じゃあ大丈夫じゃね。グローブとかもってんの?」 「あー寮にあるはず。…あれ?家だっけな?」 「じゃあ今度の昼休みやろうぜー!約束な!」 なんて沢村が大声を出すものだから気づけば周りの野球部員からまた見られるのであった。 「おい、あれ御幸先輩の彼女じゃね?」 「あ、あの時ブルペンにいた!」 「え、何?沢村の彼女?」 …全部聞こえてるし、まず誰の彼女でもないし。 「わかったからうるさい。」 「うるさいとは何をー!?」 「いや、だから今度家からグローブ持ってくるから、そのうちね。」 「おうー」 その後沢村は「約束なー」なんて言いながら上機嫌に他の野球部の人達と寮へと戻っていくのだった。 「へぇ、 繭ちゃん投げるんだー。」 私の事をちゃん付で呼ぶ人その人は私の後ろからやってきて、私の肩に手を回している。そして耳元で話し始めるのであった 「そうですねー、それが何か?」 「俺に球取らせてよ。」 誰かなんて言わなくてもわかるように、御幸先輩だ。 「…はぁ。球とってどうするんですか。」 「いや、ただ 繭ちゃんの実力を知りたいだけ。 」 「そういうのは鳴に聞いたらいいんじゃないですか?鳴なら実力は知ってると思いますよ。」 「だってあいつこの間電話してきた思ったら繭ちゃんの事しかきかねーんだもん。」 「まぁ内緒で受けたんで。…投げるのはいいですけど、グローブ家なんでそれ取りに行ってからになりますね。」 「やった。じゃあ明日なー。」 …明日にでも学校帰りに取りに帰ろうかなぁ。 こうして私はとんでもない約束をしてしまうのであった。 約束日時は今週の土曜日、大阪桐生との試合の後らしい。 第五話 end (っていうのか先輩近いです。) (え、いいじゃん別にー。) (亮さーん。これが噂の妹さんっすか) (あ、どうも雪音です。もしかしてお兄ちゃんと一緒に二遊間守ってた倉持さんですか?) (そうっすよー。) (…ふふ。倉持にはあげないよ。) ((?)) ← |