性格悪眼鏡と師匠さん




初めて青道野球部の試合を見に行ってから日はたち、私はまた普通の学校生活を送るのであった。…と言っても入学当時の静かさはもうどこにもない。



「おはよー。成宮。今日って英語の課題あったよな?」
「おはよー沢村。うん、あったねー。」
「なぁ見せて!!」
「はい。」
「あ。こら沢村。お前また…ったく、成宮も沢村なんか無視していいんだかんな?」
「沢村くんまた課題やってないんだー。」
「春乃ちゃんおはよー。」



…とりあえず野球部に囲まれております。入学当時はあれだけ避けていた野球部に。
そしてお隣の沢村は相変わらず課題をよく忘れており、その度に私が見せるのはもう日課になりつつある。それではだめな気がして止める人も最初は多かったのだが、一度沢村が課題を忘れたとき担当の先生に写してもいいから出しなさいと言われてからは止める人は金丸だけとなった。
きっと金丸はどこにいても苦労する人物なのだろう。



「成宮聞いてくれよー今日さ、師匠がなー…」



最近沢村の話には師匠という人がよく現れる。沢村の話によると今は性格悪眼鏡さん(こちらもよく話に出てきた。)ではなく師匠とバッテリーを組んでいるらしい。…というか師匠って人を多分最初は嫌っていたみたいなんだが、どういうことがあったのやら。



「あ、そうそう。春くんから聞いたんだけど今度の土曜日また試合あるんだって。なんか最近沢村も頑張ってるみたいだし、 繭良かったら行ってきたら?  」



話は飛んで、今はお昼休み。いつもながらゆきと一緒に食べております。



「あれ、ゆきその日は部活?」
「そう。春くんに聞いたら二軍最後の試合とか言っていたからすごく行きたかったんだけどね。」
「ふーん。」



結局どうしようかなんて少し迷ってその日はそれで終わったのだけど、当日になってなんとなく制服に着替えた私は、無意識にグラウンドに向かっていたのであった。



対戦相手は黒土館。
先発は沢村。
さて、どうなることか。


・・・・



「あ、春乃ちゃんだ。」



グラウンドについて見やすい場所を探していたとき、ちょうど試合を見ていた春乃ちゃんを見つけた。



「あれ?繭ちゃん?どうしたの?」
「ん?いや、ただ暇だったから。」
「あ、繭ちゃんたしか寮だったよね!」
「そうそう。本当はゆきもくる予定だったんだけどねー。」
「雪音ちゃん部活なんだ。残念だね。」




「春乃?その子は?」
「あれ、前沢村君のノート届けに来た子じゃない?」


しばらく春乃と話に夢中になっていた私は春乃の隣にいたマネージャーのみなさんのことを忘れてしまっていた。
その後きちんと挨拶をした私はマネージャーの先輩たちに許可を頂いて一緒に見ることにした。…ついでにお姉さんにこの前のお礼もした。





「あーあ。」



一回の守備。沢村はボールをなかなかミットに投げることができない。まぁあれだけ足が中に入っていたら入らないのも当たり前のような気がするんだけど。
それにしても、青道って外の人がうるさすぎる。沢村のミスに対し、外の人からは沢村を変えろという批判が出ているし…先生が何も言わないから別に放っておいていいのになんて少し思ったり。
そして、そのコールが途切れたと思った時には沢村ではなく、キャッチャーの交代が片岡先生の口から発せられた。
そのキャッチャーは滝川先輩。沢村が少しうれしそうな声を上げのが
聞こえたのできっとあれが師匠さんだろう。



「すごい。あんな人がなんで二軍に?」



春乃がそういいたいのもわかるくらい師匠さんのプレイはすごかった。…というか痛めたと聞いていたのだが、肩はもういいのだろうか。



「ははっはははは。」



ふと後ろから聞こえる笑い声。
頭にはてなを浮かべながら振り返ってみるとそこにいたのは眼鏡をかけて帽子をかぶった先輩らしき人。



「やっぱり、あんたはこうでなきゃな…クリス先輩。」



肩で息をした眼鏡先輩。
その姿を見てるとよほど師匠さんを尊敬しているのか、ここまで走ってきたのか…よほど息が切れているのを見ると両方だろうか。
なんて思っている間にも二軍の試合はまだ続いていく。
打席では春市くんが一塁へと進んでいき、そして次の人へ。



「あ、春乃。洗濯物干しにいくよ?」
「はい。貴子先輩。」
「じゃあ、私達仕事しに行くからここで見ていてくれていいからね?」
「はい。ありがとうございます。」
「なんかあったら御幸君に聞いてくれたらいいし。彼こう見えて一軍の人だから。」
「はい。」



マネージャーさんたちは仕事の合間に観戦をしていたらしく、私にそういうとマネージャーさんたちは校舎の方へと言ってしまった。
後に残されたのは私と…眼鏡先輩(名前忘れた)



「ねぇ、野球詳しいの?」
「…ある程度ならわかります。」
「ふーん。」



…興味がないのならあまり聞かなければいいのに。
眼鏡先輩との初めての会話はたしかこれくらい。けれど、そんなことはどうでも良かった。少しするとクリス先輩と沢村がわたし達の前を通った。



「はははっ。練習と実践では得るものが大きく違う。しっかり勉強させてもらえよ、沢村。」



そういう眼鏡先輩は疲れたのだろうか壁にもたれながら少し偉そうにこう言った。
…やっぱり先輩なんだろう。まぁ言っていることは正しいんだけど。
沢村は眼鏡先輩をみるなり、すごく嫌そうな顔をした。…あ、そうかこの人きっと性格悪眼鏡さんだ!!!
その隣の師匠さんはその光景を見ながら私と目を合わせるのであった。



「お久しぶりです、先輩。」
「半年ぶりか?久しぶりだな。」
「あの時はお世話になりました。まぁ無事に青道に入学しました。」
「…そのようだな。」
「ちょ、クリス先輩。成宮と知合いっすか?」
「ああ、まぁ、ちょっとした知り合いだ。
…御幸、 繭。お前らもブルペンに来い。」
「え?」
「正捕手としてあいつの球を見ておいた方がいい。面白いものが見れるぞ。」
「いやいや、クリス先輩。御幸一也はわかりますけど、成宮初心者ですよ?」
「なんだ繭、お前沢村に言ってないのか?」
「いや、馬鹿なんで広まるかと…」
「それもそうだな。…沢村。」
「はい?なんすか?」
「こいつはこう見えても野球できるぞ?」
「は?え?」
「とにかくこい、繭。それにもう気づいているんだろ?」



…クリス先輩は全てを見透かしたような目で私のことを見た。



「ほら、いくぜ?」



ボーっとしていたからどれだけの時間がたったのかわからないが、気づけば眼鏡先輩に手をつながれ私は先輩と一緒にブルペンへと入っていくのであった。



第三話

(おい誰だよあの女。)
(はぁ…ってか成宮じゃん。)
(え、なに金丸知り合い?)
(ってか御幸先輩と手つないでるぞ)
(御幸先輩の彼女か?)


(…見られてる。超見られてる。)


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