桜色な兄弟達




学生寮と言ってもあまり利用するものはおらず、基本は一人部屋になっている。



昨日、ゆきは噂のお兄さんに出会えた模様で、寮に帰ってきたゆきにその事についてかたられるのであった。まぁゆきは基本的に部活で遅くなることが多いので、食事は一緒に学生寮の食堂でとることが多い。



「お兄ちゃんひどいんだよ?私の事見てしらないだって!もうなんなのって感じじゃない?しかもさ、春くんに聞いたらお兄ちゃん春くんに厳しい事言ったみたいでさぁー」



厳しいことねぇ…兄なんだから当たり前じゃないのかなぁ。
その後、…なんか必死にお母さん達説得したのにやめておいた方が良かったのかな。と言ってゆきは落ち込んでしまった。



「ま、いきなりでびっくりしただけかもよ?」
「そうかなぁー。」
「そうじゃない?」



それからしばらくゆきは落ち込んでいた。



・・・・・



「あー、もう考えたら止まらない。」
「まぁ今日は学校お休みだしね。」
「しかも今日に限ってチアもお休み…。
なんかね、春くんに聞いたら今日は先輩達と紅白戦やるんだって。」
「紅白戦って…中学出てすぐだよね?早くない?」
「確かに。…実力でも見るのかなぁ。」



…あ、なんか嫌な予感。



「まぁ、そんなことはどうでもいいんだけどさぁ、 繭今日暇? 」
「暇だけど…?」
「じゃあさ、一緒に試合…」
「いかない。」
「えー。この間約束したじゃん。」
「いつかとは言ったけどさぁ。」
「ねー、いこ?お願い!!」
「はぁ。」



こうして私はなぜか野球部の試合に行くこととなったのだった。



「とりあえずご飯食べてからね。」
「はーい」




試合が何時から始まるか知らなかったので、とりあえずゆきに春くんと言う人に連絡をしてもらって制服に着替えたわたし達はとりあえずグラウンドに向かった。



「へぇー2つもあるんだ。」
「 繭ってさ、青道のグラウンド 来るの初めて?」
「うん。別に野球部に入りたかったわけじゃないしね。」
「ふーん。じゃあなんでここに?」
「うーん。人探しかな。(あとは…)」



そう、あの人を探しに。
兄の言う唯一稲実の誘いを断った人



「えー、なんか意外。」
「そう?普通じゃない?」
「だって、 繭って絶対中学まで野球やってたっぽいのに入る気なかったってところが。」
「へぇよくわかったね。」


…感が鋭いというのか。なんて思っていると近くに人がいっぱいいるグラウンドが見えた。


「…あ、あれじゃない?紅白戦のグラウンド。」
「ほんとだ。…春くんいるのかなぁ。」
「っていうか、点数ヤバくない?」
「それだけ本気なんだよ。」



きっと3年生にとっては最後のこの年、2年生にとってもいろいろな思いがあるこの年なんだろうけど。それに比べ1年は誰もが高校野球の厳しさというのに改めて直面でもしたのだろう、その瞳からはあまりの現実から目を背けるものが多いように感じた。
私たちがついた時には既に5回が終わっており、打席にはちょうど沢村がたっていた。
やる気はあるように見えたのだが、三級ともストライクを投げた投手に対し、沢村もまた空振りをするのだった。
私は思わず「沢村って…大丈夫なのかなぁ?」と、隣のゆきに聞こうとそっちを向いたとき、いきなりとなりのゆきが一方向を向いたまま言葉を発したのだった。



「まだ、キャッチャーが後ろにそらしてる」



そう言われて沢村の方を見ると。そこには確かにキャッチャーがボールを取り損なっており、沢村は一塁へと走っているのが見えた。



「沢村が塁に出た。」



見事一塁へと進んだ沢村をみて私達は少し安心した。
しかし問題はここからで、ここから後者が続かないと沢村の頑張りも無駄になるのだった。


「けど、ここからどうなるか…」
「大丈夫だよ。」
「え?」
「だって、春くんがいる。」



そう言ったゆきは自信があるような顔つきで試合を見ていた。



「ゆきの片割れくん?」
「片割れって…春くんなんだけどなぁ。」



ゆきが言った通り、その攻撃で雪と同じピンクの髪をした少年が出てきた。
そしてその少年は見事に先輩の球を打ったのであった。



「きゃー春くんさすが!!」
「へぇー、アウトコースをあそこまで…弟くんもしかして打率すごいの?」
「知らない!…けど春くんはどんな玉でも打っちゃうからすごいの!」



そういうゆきはなんだか嬉しそうだ。よっぽど兄弟のことが大好きなんだろう。



「おいおい、なんじゃこりゃー」



少しするとなんか叫びながら四人の先輩らしき人たちが入ってきた。その中にはまたピンクの髪をした人が居て、あれがお兄さんなんだろうかとちょっと思うのであった。



「っていうか、沢村ってピッチャーだったんだ。」
「え?どうしてなんか意外そうな顔してる。」
「いや、だってピッチャーって顔に出したらダメじゃん。」
「んー?そんなものなの?」



沢村が投げる球は大体がストライク。けど、なんか違和感を感じるたまのように感じた。



「あ、ムービンクボールか。」
「え、なに?」
「ううん。なんでもない。ってか弟くんすごいね。」
「うん。春くんもお兄ちゃん大好きだからね。」



その後、沢村は失点されながらも最後まで投げ抜いたのだった。
…というか初見で沢村のボールがわかるってことは私も結構野球に染められているのだろうか。



「さて、帰ろっか。」



試合が終わったあと、ゆきは笑顔で私のこう言った。その笑顔はなんとなく久しぶりに見た弟くんのプレイに満足している、そんな感じの表情だった。



「もういいの?」



無意識だった。だけど、気づいたらこんなことを口に出していた。



「え、なにが?」
「挨拶、して帰らなくて。」
「だって春くんも疲れているでしょ?それに…」
「それに…?」
「いや、もういいの。」




「なにがもういいの?」



それは私達のどちらでもない声。男の人にしては少し年上のような、けど私は知らない人の声だった。
私達は二人同時にその声が聞こえた方を見る。

するとそこには先ほど試合に出ていた少年ではなく、もう一人のピンクの髪をした人が立っていた。



「な、んで…」
「いや、ちょっと見えたから」
「知らない人なんでしょ?」
「何?昨日のこと怒ってるの?」
「だって、私は…」
「ただ会いに来るだけでいいって言ったのに。」
「え?」
「ゆきも春一も本当に青道に入学するとは思ってなかったよ。」
「じゃあ…。」
「まぁ、来ちゃったものは仕方ないか…。試合はちゃんと応援しにきなよ。」



そういうと話の途中で泣き出したゆきの頭をお兄さんは2、3回撫でたあとゆっくりと私の方に振り向くのであった。



「で、君は…雪音の友達?」
「あ、雪音とは一緒の部屋に住んでいて同じクラスの成宮 繭といいます。」
「ふーん。雪音のことよろしく。」
「はい。小湊先輩」



最後にまたくすりと笑った小湊先輩は、ゆきの頭をまた数回なでてその場をさっていくのであった。



そしてそれから数分後。
今度は弟くんが現れて私はまた自己紹介をするのであった。



第二話 end


(あ。やっぱり泣いてる)
(はるくーん)

(ゆきの双子の弟の春市です。)
(ゆきの同じ寮の 成宮繭です。 )
(あーもしかして栄純君と一緒のクラス?)
(一緒ですよー。)
(じゃあ数学の女神さんだ。)

…なんか変なあだ名がついているんだけど。

なんでもあの課題の日、沢村は食堂で勉強していたらしくいろいろな先輩が課題をしている沢村にびっくりした挙句、「女神がくれたんです!」なんて大声で言っていたらしい。
とりあえず弟君…春市君には下の名前で呼ぶことにしてもらった。

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