TearDrop | ナノ




第4話 訓練の時間




第4話 訓練の時間




4月からきた暗殺命令から早4ヶ月が経とうとしていた頃。


その男は急にやってきた。





「や、俺の名前は鷹岡明。今日から烏間を補佐してここで働く。よろしくな、E組のみんな。」




そう言って笑った男の顔は…あいつにとてもそっくりだった。





明日から体育の授業を受け持つことになったあの男。


…やはりあいつと同じなんだろうか。



「繭―?どうしたの?」


ふと顔お上げてみるとそこには少し苦笑いな渚と杉野くん。


…あ、いけない。一緒に帰ってる途中だった。


「ごめんちょっとぼーっとしちゃって。」
「めずらしー。桜井さんがぼーっとしちゃうことなんてあるんだ。」
「え?よくぼーっとしてるよ?」
「そうなの?」
「そうだね、繭はよくぼーっとしてるかな。」
「ほらね?」

そんなことを話しているうちに話題は鷹岡さんのこととなっていった。


「渚と桜井さんどうおもう?」
「んー。私は嫌い。」
「随分はっきり言うね。…なんか理由あんの?」
「…似てるんだよね。あいつと。」
「え?」
「私が一番大嫌いな人と…まぁ違うって信じたいんだけど。」
「ふーん。…ま、明日からどうなるんだろうな。」
「そうだね。」


そして私たちはお互いの家路につくんだ。


といっても渚と私の家は近い。


「じゃあね。」


私は渚に挨拶をし、電気が点っていない我が家へと帰ろうとした。



「ねぇ繭。」

しかし、それは渚によって叶わなかった。


「ん?」
「最近学校休むことが増えたけど…大丈夫?」
「…んー。どうだろうね。」
「ねぇ、やっぱ警察に…」
「けどね、普通の時は普通なの。だから、また戻ってくれるって信じてる。」
「…そっか。あんまり無茶しないでね?」
「それ渚にもそのまま返すよ。

…じゃ。明日からまた頑張ろ?」

「うん。」


そういい私たちは今度こそ自分の家へ向かっていった。




次の日


体育の時間に私たちの時間割が変更されたといい、鷹岡さんは私たちにあるプリントを回した。


「うそ…でしょ。」
「10時間目…夜9時まで訓練。」


鷹岡さんが言うには理事長も許可したというこの時間割

…きっと理事長は勉強できなることをわかって許可したんだ。




「ちょ…待ってくれよ。無理だぜこんなの!!遊ぶ時間もねーしできるわけねーよこんなの!」


この時、クラス全員の思ったことは同じだった。


だから一人の生徒…前原くんが代表してそのことを鷹岡さんに訴えた。


これでなんとなかなる。


なんて少しでも思っていた私たちの希望は鷹岡さんが前原くんを殴ったことによって打ち砕かれることになった。




「“できない”じゃない、“やる”んだよ」


…“繭お前がやるんだ…いいな。できないじゃなくてやるんだよ。絶対にね。”



…あぁ。やっぱり嫌な予感はあたってしまった。




「さ、まずはスクワット300回かける3セットだ。抜けたいやつは抜けてもいいぞ。そのときは俺の権限で新しい生徒を補充させてもらう。俺が手塩にかけて育てた屈強な兵士は何人ともいる。一人やふたり入れ替わってもあのタコは逃げ出すまい。…けどな。俺はそういうことしたくないんだ。お前ら大事な家族なんだから。父親としてひとりでもかけて欲しくない。家族みんなで地球の危機を救おうぜ!!な!!」


そう言ってその人はそばにいた私と三村君の肩に手を置いた。



…なんだろう。この人に恐怖などは抱かない。


けど、きっとこの人はどうせ私たちに恐怖と親愛でも渡したらいいとでも思っているのだろうか。


逆らえばたたき、従えば褒める


…なんだ、結局同じじゃないか。




なんて考え事をしていた私はあまり状況がよくわからなかったが、気づいたときには鷹岡さんが目の前にいた。


「な?お前は父ちゃんについてきてくれるよな?」

そんなの、答えなんて決まっている。



「嫌。烏間先生の方がいいです。」


言ってやった。…誰もがそう思った瞬間、


ぱしん


そんな音とともに私の身体は吹っ飛ぶのであった。


「桜井さん!?」
「繭!!」


あぁ、殴られたんだ…なんてちょっと人ごとに感じていた私をよそに鷹岡は返事ははい以外認めないと言ってた。


文句があるなら拳と拳でやろうかなんて今までの流れから見て誰がそれをやるのだろうか。




「大丈夫か?首に痛みとかは?」

少しして烏間先生と殺せんせーが校舎からでて私と前原くんに状態を聞いていた。


「私は大丈夫ですよ。…慣れているので。」
「へ、へーきっす。」


…本当に大丈夫だろうか。


「繭…大丈夫?」
「へーきへーき。いつもよりちょっと痛いけど。」
「…すっごく熱いよ?」

渚はそういい、私の打たれた頬に手を当てる。


その手があまりにも冷たくて私はその上から自分の手を当ててなぜか少し安心するのであった。



…それはかつてのあの人を思い出すかのような。。。




それから少しして結局鷹岡さんの授業ははじまるのであった。


そこには先ほどお腹を蹴られた前原くんの姿も私の姿もある。



「冗談じゃね…」
「最初からスクワット300回とか死んじまうよ。」


男子でも根を上げるこの授業。


もちろんそんな授業に女子がついていける訳もなく…


「烏間先生…」


なんて根を上げる生徒が出てくるのは当然のことであった。




しかし、そんな女子にも鷹岡は容赦ない。


「おい。烏間は俺たち家族の一員じゃないぞ。…おしおきだな。父ちゃんを頼ろうとしない子には」


そう言って彼女…倉橋さんを殴る体制に入った鷹岡。



やばい…そう思ったときにはさっきまでスクワットで限界だった足が動き、


「え?」


私は倉橋さんの前にたっているのであった。




「ねぇ先生…父親ってそんなに偉いの?」
「なんだよ、お前。まだ反抗するっていうのか?父親なんて世の中に父親の命令なんて聞かない家族がどこにいる?いないだろう?」
「…なんだ。やっぱり父親なんて子供をものでしか見てないんじゃない。」
「…なんだと?」

…あ、顔が変わった。

「親が引いたレールの上をただただ歩いて、失敗したらただただ怒鳴りつけて、それでもなお予想外のことが起きたら自分の勝手なように子供を利用して、一体何がしたいのって感じ。」
「けどそのおかげで子供は立派になっていく。それでそいつらの人生よしってもんじゃねーか。」
「…もういい。だから嫌いなんだよ。あんたもあいつも父親なんて…もう大っ嫌い。」


−大っ嫌い−その言葉を言ったと同時にまた私はお腹を叩かれた。

それもさっきより本気で。


「けほ…っは。」

「え、ちょっと桜井さん!!」


…私はバランスを崩して後ろにいた倉橋さんに寄りかかってしまった。


「やっぱりお前から調教してやることにするよ。お前みたいなんがいるからクラスみんながおれを否定するんだ。…うん。きっとそうだ。」


そういう鷹岡の顔はいつにもましてすっきりとしていて、あぁ殺されるんだってなんとなく思った。



スローモーションのように鷹岡が手を振り上げるのが目に見えた。


私はとりあえず倉橋さんに危害が及ばぬよう自力でたとうとするものの、それは叶わず、結局倉橋さんによりかかってしまうのであった。



そうしているうちにも鷹岡の手は私に向かって振り下ろされているのが見え、あと少しというところでその手は私に届くことはなかった。



そう、


「それ以上、生徒たちに手荒くするな。」


「か、ら…ま、せ…せ…」


とめに入ってくれた烏間先生によって。




それからというもの、烏間先生と鷹岡がもめているのを私たち生徒はただみまもるだけであった。



そして鷹岡は烏間先生にある提案をした。


“イチオシの生徒を一人だけ選び、本物の刃物で高岡に当てられたら勝ち…去っていく”という提案を。




「ん。」


「あ、桜井さん大丈夫?」


「ん。へ…き」



そんな時ふと聞こえた烏間先生の声。


「渚くん…やる気はあるか?」


…え、なに。渚が本物のナイフで戦うってこと?



…そんなの。もし負けたら。


「やります。」




…あぁもう戻ることはできない。



「あ、けど。先生。ちょっとだけお時間もらってもいいですか?」


「それは別に構わないが…」


あれからすぐに始まると思っていた試合はまだ始まらず、それどころかなぜか渚はこちらへと来ていた。




「繭お腹平気?」


「…なぎさ、のばかぁ。」


あー痛い。


「はいはい。それは後で聞くから。」


「…もう、ひとりに、しないで。」


渚がいなくなったら私はどうしたらいいのだろうか。


「しないよ。もう絶対に…だから」


渚は私を抱きしめる。


久しぶりに全身で感じる渚の体温。


そして頬に響いたリップ音。



そんな心地よい時間もあまりなく



「じゃあいってくるね。」


その渚の声を子守唄に私の意識は闇へと落ちていくのであった。







「んっ」


なんかゆらゆらとしたこの背中。


「なぎさぁ?」



この時期に青いベストを着ているのは一人しか知らない。



「もう、随分無茶したでしょ。」


なんて顔は見えないけどきっと渚は呆れ顔。


「えへへーだって。」
「みんな心配してたんだからね。」
「きをつけまーす。」
「ったくもーわかってないでしょ。」
「へへ。だってもう誰も傷つくところなんてみたくないから。」


…傷つくのは私だけで十分。



「なんか、僕のほうが心配になってきた。繭が僕に言った言葉そのままかえすよ。」


…ん?言葉?


「私なんかいったっけ?」


「はぁ。…もう、一人にしないでね?」


…あーそういえば。


「渚ほっぺにちゅーしたね。」


…小さい時はよくされていたような。


「…うるさい。」


…あ、渚が照れた。

「ほっぺ真っ赤だよ、渚。」

「もうー。」




こうして私たちの激動の一日は終わった。



prev next