増築された新館は鉄筋コンクリートの四階建で、僕のいる校舎からはグラウンドを隔てて反対側にある。
 新館を教室として使っているのは三階までで、四階はクラブの部室になっていた。僕は新聞部員で、部室は四階の廊下の突き当たり、新館と同じ頃作られたドーム型の室内体育館に一番近い所にある。もうとっくに授業は始まっていて、あたりには人の声もしない。
 僕が部屋の引き戸をガラリと開けたのと、中に座っていた女生徒が立ち上がったのが同時だった。僕は思わず「あっ」と声を上げる。弓子だった。
 この学校の男子生徒だったら、三年生の弓子を知らない者はない。際立って派手な雰囲気などないのに、長い髪と切れ長の目が強い印象を与える。僕はもちろん一度も話しをしたことなどないのに、弓子が何かを見つめて立っているのを遠くから見る時、その目の先に何があるのか、いつも気になった。その弓子が僕の目の前に立ち、僕の顔を真正面から見ている。
 「新聞部の人ね」
 弓子が三年生の声で言う。
 「そうです」
 窓にはカーテンが引かれていて、部屋の中はうす暗い。
 「投書を預かってきたの。受け付けてくれるわね」
 弓子が差し出したのは、一通の封筒だった。そのまま二〜三歩前に、つまり僕に向かって歩いてくると、弓子は封筒を僕のおなかのあたりに押し付ける。僕は思わずそれを受け取ってしまう。
 「じゃ、頼んだわね」
 弓子は、入口を入ったところに立ったままの僕の脇をすり抜けるようにして、身体を入れ替える。一瞬、日向の香りのする弓子の髪が、僕の顔とすれ違う。
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