お島がいらいらして、そこを立かけようとすると、養父はまた言足した。
「それで王子の方では、皆さんどんな考だったか。よもやお前に理があるとは言うまいよ」
 お島は俛いたまま黙っていたが、気がじりじりして来て、じっとしていられなかった。
 おとらが汐を見て、用事を吩咐けて、そこを起してくれたので、お島は漸と父親の傍から離れることが出来た。そして八畳の納戸で着物を畳みつけたり、散かったそこいらを取片着けて、埃を掃出しているうちに、自分がひどく脅されていたような気がして来た。
 夕方裏の畑へ出て、明朝のお汁の実にする菜葉をつみこんで入って来ると、今し方帰ったばかりの作が、台所の次の間で、晩飯の膳に向おうとしていた。作は少し慍ったような風で、お島の姿を見ても、声をかけようともしなかったが、大分たってから明朝の仕かけをしているお島の側へ、汚れた茶碗や小皿を持出して来た時には、矢張いつものとおり、にやにやしていた。
「汚い、其地へやっとおき」お島はそんな物に手も触れなかった。お島が作との婚礼の盃がすむか済まぬに、二度目にそこを飛出したのは、その年の秋の末であった。
 残暑の頃から悩んでいた病気の予後を上州の方の温泉場で養生していた養父が、急にその事が気にかかり出したといって、予定よりもずっと早く、持っていった金も半分弱も剰して、帰って来てから、この春の時に用意したお島の婚礼着の紋附や帯がまた箪笥から取出されたり、足りない物が買足されたりした。
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