他に二人もいた。そして拭き掃除がすんでしまうと、手摺りにもたれて、お互いに髪を讃め合ったり、櫛や簪の話をしていた。
「客もいないのに、三人も女がいるなんておかしいね。」笹村はそこらをぶらぶらしながら笑った。
「それアそうですけど、家は一晩二晩の泊り客がちょいちょいありますから……。」
 笹村は階下へ降りて来て、また机の前に坐った。大きな西洋紙に書いた原稿の初めの方が二、三冊机の上にあった。笹村は錘のかかったような気を引き立てて、ぽつぽつ筆を加えはじめた。やり始めると惰力で仕事がとにかくしばらくの間は進行した。時とすると、原書を翻って照合しなどしていた。ふと筆をおいて、疲れた体を後へ引っくら反ると、頭がまたいろいろの考えに捉えられて、いつまでも打ち切ることが出来なかった。
 気が餒えきって来ると、笹村はそっとにげるように宿の門を出た。足は自然に家の方へ向いた。
 お銀は寂しい下宿の膳のうえに載せるようなものを台所で煮ていた。
「私今車夫に持たしてやろうと思って……。」
 お銀は暑そうに額の汗を拭きながら、七輪の側を離れた。
 火鉢の傍に坐っていると、ゴーゴーいう鍛冶屋の機械の音が、いつも聞き馴れたように耳に響いた。この音響のない世界へ行くと、笹村はかえって頭が散漫になるような気がした。
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